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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第14話 先生が書き足した名前

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(三)赤竜はヴァルグになる

◆ 三 再契約


 ミレイユが代筆文を整えた。


 登録板には、すでに竜爪印登録用の爪痕が残っている。


 今度は、再契約そのものに押すための登録板だった。


 赤竜の熱に耐えるため、板は厚く、黒く、魔力保持の処理が施されている。


 ミレイユは、契約文を読み上げた。


「登録名、ヴァルグ。契約主体、竜籍登録済み赤竜本人」


 赤竜は静かに答える。


「相違ない」


「旧財宝守護契約は現代契約へ読み替え、財宝守護責任を単独負担から外す」


「相違ない」


「財宝一式は別管理とし、移送・保管・点検・損耗対応について、人間側の管理責任を明確化する」


「相違ない」


「翼の意匠を持つ古代魔道具一件については、契約上の守護対象ではなく、本人の思い出として保管を認める。ただし、盗難、損耗、変質、移動について、旧財宝守護契約上の不履行とは扱わない」


 赤竜は、少しだけ間を置いた。


 それから答えた。


「相違ない」


 ミレイユは続ける。


「新契約における役割は、月一回の存在確認。北の山脈周辺の指定範囲を歩行または飛行すること。ただし休眠期は除外」


「散歩だな」


「制度上は存在確認です」


 ミレイユは淡々と言った。


 リオルは小声で言う。


「でも内容は散歩ですね」


 メルセナがすぐに補足する。


「竜の散歩です。熱管理、飛行高度、接近禁止区域、休眠期の除外を明記します」


 赤竜は低く言った。


「散歩にしては細かい」


「竜の散歩ですので」


 リオルが言うと、カイルが少しだけ肩を震わせた。


 ミレイユは、何事もなかったように読み進める。


「無関係の人間を襲わない。村を焼かない。人里へ不用意に接近しない」


 赤竜は少しだけ声を低くした。


「相違ない」


「人間側は、赤竜の領域を不用意に侵さない。月一存在確認の予定を管理し、休眠期を尊重し、契約更新を怠らない。疑義が生じた場合は、指定相談先へ確認する」


「相違ない」


 カイルが言った。


「月に一度、姿を見せるだけでも抑止力にはなります」


「結果的には、そうなるでしょう」


 メルセナは答えた。


 赤竜がメルセナを見る。


「ならば、これは国防契約か」


「いいえ」


 メルセナは即答した。


「契約上は、存在確認です。国防をあなた一体に背負わせません」


 リオルは、前にも聞いた言葉を思い出す。


「強いから任せる、をやめるんですね」


「はい」


 メルセナは頷く。


「強い一体に全部背負わせません」


 赤竜は静かにメルセナを見た。


「人間にしては、慎重だ」


「召喚士ですので」


「そうか」


 赤竜は納得したように言った。


 ミレイユが最後の文面を読み上げる。


「本契約は、旧財宝守護契約を否定するものではなく、現代制度における契約主体、役割、責任範囲、相談先、解除条件を定め直すものである」


 洞窟の奥が、静かになった。


 赤竜は目を閉じた。


 そして、低く答える。


「相違ない」


 メルセナが一歩前に出る。


「最後に竜爪印を」


「押す」


 赤竜が爪を持ち上げた。


 リオルは思わず言う。


「熱、抑えてくださいね」


「抑えている」


 登録板が、赤く光り始めた。


 リオルは汗を拭う。


「抑えていても赤い……」


「問題ありません。耐熱処理済みです」


 メルセナは落ち着いていた。


 赤竜の爪が、登録板へ沈む。


 ぎしり、と低い音がした。


 赤い熱が板の縁まで走り、竜爪印が深く刻まれる。


 ミレイユが確認し、記録板に筆を入れた。


「確認しました」


 その声が、洞窟の奥で小さく反響する。


「再契約、成立です」


 誰もすぐには動かなかった。


 契約書が光るわけではない。


 鎖が砕ける音もしない。


 ただ、登録板に刻まれた竜爪印だけが、熱を帯びて赤く残っていた。


 その瞬間、赤竜は財宝の番人ではなくなった。


 千年以上の守護が消えたわけではない。


 契約は変わる。


 名前も変わる。


 役割も変わる。


 それでも、守ってきた時間は残る。


 赤竜――いや、ヴァルグは、静かに息を吐いた。


 メルセナが言った。


「ヴァルグ」


 ヴァルグが目を細める。


「……我のことか」


「はい。登録名です」


 リオルも、少し緊張しながら言った。


「ヴァルグさん」


「まだ慣れぬ」


「僕もです」


 メルセナは淡々と言う。


「慣れてください。契約上も、今後はその名を使います」


「人間は、名を決めるとすぐ使うのだな」


「使わなければ登録した意味がありません」


「もっともだ」


 ヴァルグはそう言ったが、声にはまだ少しだけ戸惑いがあった。



※第14話「先生が書き足した名前」は全六回です。

続きます。


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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