(二)守るものではなく、残すもの
◆ 二 守るものではなく、残すもの
「財宝の扱いを確認します」
メルセナは、すぐに実務へ戻った。
リオルは少しだけ驚いたが、それがメルセナなのだとも思った。
大事な感情を受け取った後でも、彼女は手続きを止めない。
むしろ、止めないことが大事なのだ。
「旧財宝守護契約における財宝一式は、新契約ではあなた一体の守護対象から外します」
赤竜は静かに聞いていた。
「では、財宝はどうする」
「北の山へ移します。管理責任は人間側にも置きます」
「我に守らせるのではないのか」
「はい。守るためではありません」
リオルは、魔道具を見ながら言った。
「思い出として、近くに置くんですね」
赤竜がこちらを見る。
「思い出として」
「はい。守らなきゃいけないものじゃなくて、大事にしていいものとして」
赤竜は黙った。
メルセナが続ける。
「財宝の大半は、王国、召喚士ギルド、地方防衛会議の管理下で移送・保管します。あなたの近くに置くとしても、契約上の守護責任はあなた一体に負わせません」
「盗まれれば」
「あなた一体の不履行にはしません」
赤竜の喉が、低く鳴った。
「これがあると、また盗まれれば我は狂うかもしれぬ」
誰もすぐには答えなかった。
それは脅しではなかった。
赤竜自身の、正確な自己申告だった。
リオルは、布の上の魔道具を見た。
「だったら、この一個だけを大事にしたらいいと思います」
赤竜の視線が、リオルへ戻る。
「一個だけ」
「はい。財宝全部じゃなくて。今回盗まれた、この魔道具だけ」
リオルは、慎重に続けた。
「これなら、財宝全部を背負うよりは、思い出として持てるんじゃないですか」
赤竜は、魔道具を見る。
翼の意匠。
火に変質した、風の道具。
「たった、これだけか」
「はい」
「千年以上守ってきて、残すものが、たったこれだけか」
リオルは、答えに詰まった。
けれど、嘘は言えなかった。
「でも、全部を背負うよりは」
赤竜は、魔道具を見つめ続けた。
長い沈黙の後、低く言う。
「しかし、十分な気がする」
リオルは、胸の奥が少しだけ緩むのを感じた。
メルセナが確認する。
「それは守護対象ではありません」
「分かっている」
「契約上の責任からは外します」
「分かっている。これは、契約ではない」
赤竜は、魔道具を見たまま言った。
「思い出だ」
その言葉を聞いた時、リオルはようやく分かった気がした。
役割を終えることは、思い出を捨てることではない。
守らなくても、大事にしていい。
赤竜は、その違いを、今ようやく受け取ろうとしている。
※第14話「先生が書き足した名前」は全六回です。
続きます。
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