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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第14話 先生が書き足した名前

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(一)契約書に書けないもの

◆ 一 再契約の前に


 書類は整っていた。


 竜籍仮登録。


 代筆同意。


 竜爪印登録。


 旧財宝守護契約の読み替え案。


 新契約案。


 登録名、ヴァルグ。


 赤竜を現代制度上の一個体として扱うための準備は、ひとまず形になっていた。


 残っているのは、本人の最終意思確認。


 そして、再契約の締結だけだった。


 洞窟の奥は、まだ熱い。


 けれど、最初に赤竜と向き合った時のような、石まで震わせる怒気は薄れていた。


 財宝は、まだそこにある。


 翼の意匠を持つ古代魔道具も、布の上に置かれている。


 その魔道具は、もうただの盗難品ではなかった。


 赤竜が千年以上守ってきた時間の、形の一つだった。


 ミレイユが代筆用の登録板を整え、カイルが確認者として少し離れた位置に立つ。


 メルセナ・オルブライトは、赤竜の前に立った。


「最終確認に入ります」


 赤竜は、すぐには答えなかった。


 長い沈黙が落ちる。


 リオル・ロステルは、その沈黙に、怒りとは違うものを感じた。


 迷いだ。


 赤竜は、怒っているのではない。


 迷っている。


 やがて、赤竜が低く言った。


「……本当に、我は再契約しても良いのだろうか」


 メルセナは、赤竜を見上げた。


「制度上は、再契約が最も適切です」


「制度上は、か」


「はい」


 赤竜は、ゆっくりと息を吐いた。


 それだけで、周囲の熱がわずかに揺れる。


「契約としては、それが正しいのだろう。だが……」


 言葉が止まる。


 リオルは、その続きを待った。


 けれど、赤竜は何も言わなかった。


 言葉にできないものを、喉の奥に抱えているようだった。


 リオルは、気づけば口を開いていた。


「たぶん、適切かどうかじゃなくて」


 メルセナが、リオルを見る。


 カイルも、ミレイユも、少しだけ視線を向けた。


 リオルは一瞬ひるんだが、続けた。


「思い出と契約が、繋がっているのだと思います」


 赤竜の目が、ゆっくりと細くなる。


「思い出……?」


「はい」


「数千年生きている我が、思い出で迷うというのか」


「数千年生きているから、たくさんあるんだと思います」


 赤竜は黙った。


 リオルは、布の上に置かれた魔道具を見る。


 翼の意匠。


 元は風の魔道具。


 赤竜の火の精霊力に長く晒され、火へ変質した古代の道具。


 それは、契約対象だった。


 けれど、それだけではなかったのだと思う。


「財宝を守る契約をやめたら、昔の契約までなくなる気がしているんじゃないですか」


「契約は契約だ」


 赤竜は言った。


「でも、ただの契約じゃなかったんだと思います」


「ただの契約ではない?」


「誰かに頼まれて、ずっと守ってきたものだから」


 赤竜の瞳が、わずかに揺れた。


 リオルは慎重に言葉を選ぶ。


「財宝そのものが惜しいだけじゃないんですよね。前に、財宝そのものへの怒りは譲れるところもあるって言っていました。でも、守れなかったことは譲れないみたいだった」


「……」


「たぶん、財宝は、昔の召喚士との約束の形で。旧契約は、赤竜さんがずっと続けてきた役割で。だから、財宝を守る契約をやめることが、その時間を手放すみたいで怖いのかなって」


「我が、怖いと」


「怖いというか……名残惜しい、の方が近いかもしれません」


「名残惜しい」


 赤竜は、その言葉を繰り返した。


 洞窟の奥に、静かな熱が満ちる。


 メルセナが、落ち着いた声で言った。


「リオルの見立ては、制度上の整理ではありません」


「すみません」


「ですが、無視できない観点です」


 リオルは少しだけ目を見開いた。


 メルセナは赤竜を見る。


「再契約は、旧契約を否定するものではありません」


「では、何だ」


「古い契約を、現在の制度と、現在のあなたに合わせて結び直すものです」


「古い契約は残るのか」


「契約としては更新されます。ですが、その契約で過ごした時間は消えません」


 リオルは、小さく言った。


「思い出は、契約書に書かなくても残ります」


 赤竜は、長く沈黙した。


 やがて、ゆっくりと言う。


「書かなくても、残る」


「はい」


 メルセナが答える。


「書類で消せるものではありません」


 赤竜は、翼の意匠を持つ魔道具を見た。


「思い出……数千年生きている我が……そうかもしれぬ」


 その声は、怒りではなかった。


 迷いと、疲れと、ほんの少しの納得が混じっていた。



※第14話「先生が書き足した名前」は全六回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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