(六)書類は整う
◆ 六 書類は整う
手続きは、しばらく続いた。
竜籍仮登録。
代筆同意。
竜爪印登録。
旧契約写しの確認。
財宝目録別紙。
守護対象整理表。
新契約草案。
休眠期除外条項。
赤竜、登録名ヴァルグの活動領域案。
人間側の義務。
苦情窓口。
非常時の連絡方法。
リオルは途中で、書類の数を数えるのを諦めた。
赤竜も、途中から明らかに黙る時間が増えた。
怒りではない。
書類に疲れている。
赤竜が書類に疲れている。
その事実が、リオルには少し面白かった。
「必要書類は、旧契約写し、存在確認記録、竜籍仮登録、竜爪印登録、代筆同意、再契約草案、守護対象整理表です」
ミレイユが確認した。
赤竜は短く言った。
「多い」
リオルは思わず言う。
「赤竜が一言で負けた」
「負けていません」
メルセナは言った。
「処理します」
「人間は、契約を紙で囲うのだな」
赤竜が言う。
「囲わないと後で燃えます」
メルセナは淡々と返した。
リオルは小さく言う。
「実際に燃えましたしね……」
赤竜は、リオルを見た。
リオルは慌てて口を閉じる。
だが、赤竜は怒らなかった。
ただ、低く言った。
「だから、紙にするのか」
「はい」
メルセナが答える。
「燃えた後で、誰が何を守るべきだったか分からなくならないように」
赤竜は、しばらく黙った。
「面倒だ」
「はい」
「だが、必要なのだな」
「はい」
ミレイユが最後の確認欄へ筆を置く。
「必要条件は、ほぼ揃いました。あとは竜爪印登録証明の正式保管、旧契約写しの照合、そして最終意思確認です」
カイルが頷く。
「再契約は可能と見てよいでしょう」
「制度上は、進められます」
メルセナが言った。
リオルはその言葉を繰り返す。
「制度上は」
「はい」
メルセナは頷いた。
「次は、赤竜本人の最終意思確認です」
リオルは、登録名の欄を見た。
そこには、もう赤竜ではなく、ヴァルグと書かれていた。
黒い文字で。
人間の書類の中に。
「ヴァルグ……」
リオルが呟く。
赤竜は、少しだけ目を細めた。
「まだ慣れぬ」
「そうでしょうね」
メルセナは言った。
「ですが、記録には残りました」
ヴァルグは、書類の文字を見た。
「記録とは、先に形になるものなのだな」
「はい」
メルセナは頷いた。
「だからこそ、後で間違えにくくなります」
リオルは、そのやり取りを聞きながら、もう一度書類を見る。
竜籍。
代筆。
竜爪印。
旧契約の読み替え。
そして、登録名ヴァルグ。
人間たちは、古い契約を現在の形へ直そうとしていた。
書類は整っていく。
契約も、名前も、印も、形になっていく。
赤竜は、現代制度上の一個体として認め直されようとしている。
あとは、赤竜自身がそれを受け入れるかどうかだった。
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