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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第13話 竜の印鑑証明

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(四)名前

◆ 四 名前


「必要な項目とは何だ」


 赤竜が問う。


 ミレイユは記録板を見た。


「登録名です」


「名前が必要なのか」


「竜籍上は必要です」


 メルセナが答えた。


「赤竜では足りぬのか」


「分類名に近い扱いになります」


「我は一体しかおらぬ」


「それでも登録名が必要です」


 赤竜は、少しだけ考え込んだ。


 リオルは、その表情を見上げる。


 赤竜に名前がない。


 それは、考えてみれば不思議だった。


 これほど大きく、これほど古く、これほど強い存在なのに。


 いや、違う。


 一体しかいないからこそ、名前が要らなかったのかもしれない。


 赤竜と言えば、この赤竜だった。


 他と区別する必要がなかった。


 だが、現代制度はそうはいかない。


 唯一無二でも、名前欄は空白にできない。


「神代には名前があった可能性があります」


 ミレイユが言った。


「壁画にも、名前らしき文字列はあります。ただし、解読できません」


「我も覚えておらぬ」


 赤竜が言う。


「長く呼ばれねば、名は遠くなる」


 リオルは、その言葉に少しだけ胸が詰まった。


 けれど、ここでは踏み込まない。


 メルセナも踏み込まなかった。


「新規登録名を定めます」


「……任せる」


 赤竜が言った。


 リオルは思わず突っ込む。


「結構大事なところなんですが」


「正直に言う」


 赤竜は真面目だった。


「名前を考えるセンスが我にあるとは思えぬ。しかし、恥ずかしい名前がついても困る」


「そこは気にするんですね」


「威に関わる」


 メルセナは頷いた。


「では、候補を出します。意味より、まず響きで選んでください」


 ミレイユが別紙を出す。


 リオルは、それを見て言った。


「名前候補まで書類になってる」


「必要です」


 ミレイユは平然としていた。


 メルセナが一つ目を読む。


「ヴァルグ。硬く古い響きです。山や戦いの気配があります。威厳があり、竜名として自然です」


 赤竜は少し考えた。


「悪くない」


 リオルも頷く。


「似合いますね」


「次に、アルヴァ。やや柔らかく、高貴な印象があります」


「柔らかいのか」


「はい」


 リオルが赤竜を見上げる。


「赤竜さん、柔らかくはないですね」


「ならば違う」


「判断が早い」


 メルセナは続ける。


「ガルヴァ。重く強い響きです。圧はありますが、やや武断的に聞こえます」


「武断的」


「戦いに寄って聞こえる、ということです」


「今は避けたい」


 カイルが小さく頷いた。


「賢明です」


「ルーヴァ。赤や炎を連想しやすく、呼びやすい名です」


「軽い」


 赤竜が言った。


「では外します」


 メルセナは容赦なく進める。


「ベルグ。山、岩、古い守護者の印象があります」


「悪くないが、少し硬すぎる」


「エルグ。短く古代的で、事務登録名として扱いやすいです」


「事務登録名として扱いやすい、とは何だ」


 リオルが小声で言う。


「赤竜が事務に反応してる」


「レーヴァ。翼や風、古い竜の印象があります」


「恥ずかしい」


 赤竜は即答した。


 リオルは少し笑いそうになった。


「早い」


「では候補から外します」


 メルセナは真顔のままだ。


「グラウド。重厚で防衛者らしい響きです」


「強すぎる」


「ヴェルグ。王国名の響きとも近く、登録名として馴染みやすいです」


「王国に寄りすぎる」


「アグナ。火を連想しやすい短い名です」


「火に寄りすぎる」


 リオルは感心した。


「ちゃんと考えてる……」


「我の名だ」


 赤竜は当然のように言った。


「考える」


 メルセナは候補一覧を閉じた。


「では、現時点で残る候補はヴァルグ、ベルグ、エルグあたりです」


「ヴァルグがよい」


 赤竜は言った。


 リオルが見上げる。


「決めていいんですか?」


「我が選んだ。ならばよい」


 メルセナが頷く。


「では、竜籍上の登録名はヴァルグとします」


 ミレイユが記録板に記入する。


 赤竜ではなく、ヴァルグ。


 その文字が、書類の欄に収まっていく。


 赤竜は、少しだけ自分の名を確かめるように言った。


「ヴァルグ」


 リオルも小さく繰り返す。


「ヴァルグ……」


「まだ、我の名という感じがせぬ」


「登録名です。使っていくうちに馴染みます」


 メルセナが言う。


「そういうものか」


「はい。少なくとも、書類上は今日からヴァルグです」


 赤竜は不満そうに鼻を鳴らした。


「書類の方が、我より先に慣れている」


 リオルは少しだけ笑った。


 赤竜に名前がついた。


 ただの赤竜ではなく、ヴァルグ。


 それは、古い守護者が現代の制度に入るための名前だった。


 可笑しい。


 けれど、少しだけ寂しい。


 リオルは、まだその寂しさの理由を言葉にできなかった。



※第13話「竜の印鑑証明」は全六回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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