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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第13話 竜の印鑑証明

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(二)財宝目録

◆ 二 財宝目録


 赤竜の広間にある財宝は、人間の目には山だった。


 古い金属と宝石と魔道具が、長い年月の熱に晒され、無造作に積まれているように見える。


 だが、赤竜にとっては違う。


 一つ一つに、形がある。


 色がある。


 場所がある。


 向きがある。


 魔力と精霊力の気配がある。


 ミレイユは広間の右奥を指した。


「では、右奥の銀杯の隣にあるものは」


「黒い箱」


 赤竜は即答した。


「その上に青石。青石の底に欠け。箱は東へわずかに傾いている。箱の中身は空。元は小さな風鳴りの鈴が入っていたが、七百年ほど前に腐食して崩れた」


 リオルは口を開けた。


「七百年ほど前」


 カイルもさすがに目を細める。


「年数まで覚えているのか」


「当然だ」


 赤竜は重々しく言った。


「崩れた時、音が変わった」


「音」


「鈴が鈴でなくなる音だ」


 リオルは、思わず黙った。


 何かが少しだけ変わる。


 赤竜はそれを覚えている。


 財宝を守るということが、急に怖いほど細かい行為に思えた。


 ミレイユは記録する。


「黒箱、青石、底部欠け、東向き傾斜、内部品腐食消失。確認対象として記録」


「次」


 メルセナが別の場所を指す。


「南壁寄りの金貨」


「三百二十七枚」


 赤竜は言った。


「いや、今は三百二十六枚だ」


 広間の熱が少しだけ上がる。


「一枚は、盗人が落とした。洞窟の入口から四つ目の分岐、左壁の割れ目にある」


 カイルが顔を上げた。


「それは回収すべきですね」


「後で確認します」


 メルセナが言う。


 リオルは、少しだけ顔を引きつらせた。


「落ちた金貨一枚まで……」


「当然だ」


 赤竜は言った。


「守護対象だ」


 ミレイユは淡々と書き続ける。


「南壁寄り金貨、登録上三百二十七枚。現存広間内三百二十六枚。逸失一枚、洞窟入口第四分岐左壁割れ目に落下。後ほど確認」


 赤竜が低く言った。


「別紙にせよ」


 リオルが小声で言う。


「赤竜が書類を増やした」


 メルセナは静かに訂正した。


「ヴァルセイン王国召喚契約実務上、必要な別紙です」


「財宝より書類の方が増えてませんか」


「増えていません」


 ミレイユは即答した。


「ただし、財宝目録を正確に作れば、相応に増えます」


「増えるんですね」


 ミレイユは次の財宝を確認した。


「欠けた冠について」


「北側、壺の後ろ。金ではない。金に見えるが、古い合金だ。左側の飾りが欠けている。欠けたのは我が契約する前だ」


「契約前損耗」


 ミレイユがすぐに記録する。


「重要です。守護開始前の欠損は不履行対象外の可能性があります」


 赤竜が、わずかに黙った。


「……そうか」


 メルセナが頷く。


「はい。いつ欠けたかは重要です」


「我は、欠けたまま守っていた」


「であれば、欠けていること自体は守護不履行ではありません」


 赤竜は、何も言わなかった。


 ただ、熱が少しだけ揺れた。


 リオルは、それを見て思う。


 赤竜は、ずっと自分に厳しく守ってきたのだ。


 欠けたものも。


 腐食したものも。


 変質したものも。


 盗まれたものも。


 全部、自分が守るべきものとして。


 ミレイユはさらに記録を進める。


「翼の意匠を持つ魔道具について」


 赤竜の目が細くなる。


「元は、青黒い風の気配を持っていた。置き場所は黒箱から三つ左。下に薄い布。向きは翼先が北。火の気配が強くなったのは、守護開始から長く経ってからだ」


「現在は火属性へ変質」


 ミレイユが書く。


「はい」


 メルセナが補足する。


「先の確認で、四精霊反応は火に大きく偏っていました。元は風の魔道具。赤竜の火の精霊力に長期間晒されたことで変質したと見ています」


「我が変えたのか」


 赤竜が問う。


「結果としては」


 メルセナは答えた。


「ただし、それが意図的かどうかは別です」


「意図はない」


 赤竜は言った。


「守っただけだ」


「では、そのように記録します」


 ミレイユが筆を動かす。


「変質は守護環境による副次変化。守護者の意図的改造ではない、と」


 リオルは、ミレイユの手元を見る。


 赤竜の言葉が、書類になっていく。


 威圧的な声も、熱も、怒りも。


 全部、人間の字へ変わっていく。


 少し可笑しい。


 少し不思議だった。


 赤竜は、財宝の位置、形、色、欠け、腐食、変質を次々と答えた。


 答えられないものはなかった。


 ミレイユの記録板の余白が、どんどん埋まっていく。


 やがて、ミレイユが息をついた。


「本人性確認としては、十分すぎます」


「十分すぎる?」


 赤竜が問う。


「はい。守護者本人でなければ把握し得ない情報量です」


「当然だ」


 赤竜はまた言った。


「守るとは、そういうことだ」


 リオルは、今度は突っ込まなかった。


 たぶん、本当にそうなのだ。



※第13話「竜の印鑑証明」は全六回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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