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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第12話 赤竜、交渉か?

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(六)再契約

◆ 六 再契約


 メルセナは、ゆっくりと言った。


「方法はあります」


 赤竜の瞳が動いた。


「方法?」


「再契約です。正確には、契約整理と再契約です」


「再び契るというのか」


「はい。現在の制度に基づき、契約を確認し、必要なら結び直します」


 広間の熱が、揺れた。


 リオルは、赤竜の目がわずかに変わったことに気づいた。


 怒りだけではない。


 何かが、そこに混じった。


「それで、我の不履行が消えるのか」


「消せる可能性があります」


 赤竜の頭が、わずかに下がる。


「……何?」


 メルセナは言葉を選んだ。


「盗まれたという事実は消えません。村に被害が出たことも消えません。ですが、それが契約不履行に当たるかは、契約条件によって決まります」


「契約条件」


「はい。元の契約が、何を、いつまで、どの状態で守るものだったのか。盗難、腐食、風化、回収、返還をどう扱うものだったのか。それが曖昧なままなら、不履行と断じることもできません」


 赤竜は黙った。


 メルセナは続ける。


「守護対象が一時的に失われた事実はあります。ですが、それが契約上の不履行として確定するかどうかは別です」


 リオルは、思わず呟いた。


「盗まれたことと、不履行は同じじゃない……?」


「はい」


 メルセナは頷いた。


「契約上、回収と返還が可能な場合に不履行としない取り決めもあり得ます。腐食や風化を除外する取り決めもあり得ます。ですが、元の契約ではそれが明確ではない」


「曖昧な契りを、我は守っていたのか」


 赤竜の声は、低かった。


 怒りではない。


 揺れだった。


 メルセナは、静かに答える。


「あなたは、守ろうとしていました。過剰なほど正確に」


「……」


「だからこそ、整理できます。あなたが怠ったのではない。契約の方が、現在の扱いに耐えられないほど古く、曖昧だった可能性があります」


 赤竜は、広間の財宝を見た。


 古い金属。


 ひびの入った壺。


 熱で黒ずんだ銀杯。


 そして、メルセナの手元にある、翼の意匠の魔道具。


「我の不履行ではなく、契約そのものが古すぎた可能性があると言うのか」


「断定はしません。ですが、そう整理できる可能性があります」


「可能性」


「はい」


 メルセナは、赤竜を見上げた。


「再契約によって、契約対象、契約目的、管理者、期限、解除条件、除外条件を現在の形で定義し直します。そうすれば、あなたが元の契約に縛られ続ける必要はなくなります」


 リオルは、赤竜を見る。


「これから何を守るのかを、決め直す」


「正確です」


 メルセナが言う。


 赤竜は、長く黙った。


 財宝の上に熱が揺れる。


 古い文字が、炎の向こうで歪む。


 赤竜は怒っている。


 それは変わらない。


 だが、その怒りの奥に、別のものが見えた気がした。


 迷い。


 あるいは、恐れ。


「我は、古き契りから離れられるのか」


 赤竜が言った。


 その声は、さっきまでと違っていた。


 低い。


 重い。


 けれど、熱だけではない。


「可能性があります」


 メルセナは答える。


「断定はしません。制度上の確認が必要です。ですが、道はあります」


「道」


「はい」


 赤竜の翼が、ほんのわずかに動いた。


 それだけで、熱い風が広間に流れる。


 リオルは目を細めた。


 赤竜は、魔道具を見た。


 財宝を見た。


 壁の古い文字を見た。


 そして、メルセナを見た。


「古き契りから離れる……」


 リオルは、その声の変化に気づいた。


 それは怒りだけではなかった。


 迷いに近い。


 あるいは、恐れに近い。


 メルセナは言った。


「再契約は、逃げ道ではありません。現在の契約として、あなたの役割を定義し直す手段です」


「我の役割を、人間が決めるのか」


「いいえ」


 メルセナは首を横に振った。


「あなたと確認します」


 赤竜は黙った。


 その沈黙は、最初の沈黙とは違っていた。


 怒りで押し潰すような沈黙ではない。


 考えている沈黙だった。


 やがて、赤竜は低く言った。


「……交渉か」


 メルセナは、静かに頷いた。


「はい。交渉です」


 赤竜は怒っていた。


 財宝を盗まれたことに。


 いや、それ以上に、契約を果たせなかったと感じていることに。


 そして、その結果として威厳を失ったように感じていることに。


 けれど、その怒りの奥に、別のものがあった。


 古い契約。


 長すぎる守護。


 もう誰も確認しない役割。


 再契約という言葉を聞いた時、赤竜の炎は、ほんのわずかに揺れた。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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