(五)村を見ていた理由
◆ 五 村を見ていた理由
リオルは、迷った。
聞いていいのか分からない。
だが、聞かなければいけない気がした。
「あの」
声が少し掠れた。
赤竜の目がリオルへ向く。
体が固まりそうになる。
けれど、リオルは続けた。
「村で、人を一人一人見ていたって聞きました」
赤竜は、しばらくリオルを見た。
「人を見ていたのではない」
「え?」
「気配を探していた」
「気配?」
「盗まれたものの魔力と精霊力だ。あれは我が守るもの。形も、色も、場所も、気配も、すべて覚えている」
メルセナが言う。
「そこにあれば分かる」
「当然だ」
赤竜は答えた。
「失われたものの気配を、我は知っている。人の群れの中に紛れていようと、荷の中に隠されていようと、近ければ分かる」
リオルは、避難民の証言を思い出した。
赤竜は人を見ていた。
一人一人を確認していた。
村人たちはそう言っていた。
けれど、赤竜は人間の顔を見分けていたのではない。
魔道具の気配を探していた。
財宝の一つ一つを覚えていたから。
欠けた気配を覚えていたから。
「それで、盗まれたことが分かったんだ……」
リオルの声は小さかった。
メルセナは、赤竜へ向き直る。
「村が燃えたのは、攻撃ですか」
赤竜は、すぐには答えなかった。
広間の熱が、少し揺れる。
「……我は、探していた」
「意図的に焼いたのではない」
「そうだ」
「怒りで熱が漏れた」
「人間の言い方なら、そうなるのだろう」
リオルは、胸の奥が冷えるのを感じた。
「熱が漏れた、だけで……」
言葉が止まる。
村が燃えた。
人が逃げた。
畑も、家も、生活も焼けた。
赤竜にとっては、攻撃ではなかった。
探していただけ。
怒りで熱が漏れただけ。
鼻息が荒かった、くらいのことなのかもしれない。
けれど、人間にとっては災害だった。
「それが赤竜です」
メルセナが言った。
赤竜の熱が、わずかに増す。
「我に説教か」
「いいえ」
メルセナは即答した。
「事実確認です」
「事実」
「あなたが守護契約を果たせなかったと感じ、威厳を失ったように感じていること。そして、無関係の人間が被害を受けたこと。この二つは、同時に存在します」
赤竜は、じっとメルセナを見た。
その瞳には怒りがある。
だが、それだけではない。
「事実を並べるのだな」
「はい。責めるためではなく、次に何をすべきか決めるためです」
リオルは、メルセナの横顔を見る。
赤竜に怯えていない。
赤竜を責め立ててもいない。
怒りを鎮めるために曖昧に慰めることもしていない。
ただ、並べている。
財宝。
契約。
威厳。
村の被害。
赤竜の意図。
人間側の被害。
混ぜずに、消さずに、並べている。
それは、火事の原因調査でリオルが見たメルセナの調査と同じだった。
分からないものを、分からないものとして置く。
繋げる前に、分ける。
怒りにも、それをしている。
※第12話「赤竜、交渉か?」は全六回です。
続きます。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/




