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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第12話 赤竜、交渉か?

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(二)怒りは一つではない

◆ 二 怒りは一つではない


 広間の熱が、わずかに増した。


 カイルが半歩だけ姿勢を変える。


 剣は抜かない。


 抜けば、それは交渉ではなくなる。


 リオルは、息を浅くしたままメルセナを見る。


 メルセナは赤竜を見上げていた。


 相手は竜。


 自分たちは人間。


 それでも、メルセナの声は変わらない。


「まず、確認させてください」


「確認」


 赤竜は低く繰り返す。


「あなたは、何に怒っているのですか」


 リオルは一瞬、胸が冷えた。


 そんなことを聞いていいのか、と思った。


 赤竜は怒っている。


 それは、見れば分かる。


 だが、メルセナはその怒りの中身を聞いた。


 赤竜は、しばらく黙った。


 その沈黙だけで、広間の空気が重くなる。


「盗まれた」


 やがて、赤竜が言った。


「我が守るものを、人間が盗んだ。我が前から奪った。取り戻す」


 リオルは、喉を鳴らした。


 メルセナは頷く。


「盗まれた品そのものが惜しいからですか」


 赤竜の目が、少しだけ鋭くなった。


「守ると契ったものだ」


「契約に含まれるから」


「そうだ。我は守ると契った。守るものを奪われた。我は契りを果たせなかった」


 リオルは、その言葉を聞いて、少しだけ赤竜の印象が変わるのを感じた。


 盗まれたから怒っている。


 それは分かる。


 だが、赤竜の言い方は、宝を取られた獣のものではなかった。


 失敗した、と言っている。


 契約を果たせなかった、と言っている。


「守護者が契りを果たせぬなど、威を失ったも同じだ」


 赤竜の声が低くなる。


 財宝の一部が、熱で小さく音を立てた。


 メルセナは、赤竜の言葉を受け止める。


「威厳が傷ついたのは、盗まれたからではなく、契約を果たせなかったと感じているからですね」


 赤竜はすぐには答えない。


 しかし、否定もしなかった。


「……そうなる」


「ということは、財宝そのものには興味がない?」


「契約に含まれるものだ。興味がないわけではない」


 赤竜の尾が、財宝の外周をわずかに動いた。


 財宝には触れない。


 だが、その動きだけで、何を守っているのかを示していた。


「だから、すべての財宝の形、色、場所、気配を覚えている」


 リオルは思わず言った。


「全部、ですか」


 赤竜の視線が、リオルに向く。


 それだけで、体が固まる。


「当然だ」


 赤竜は言った。


「守るものを覚えずに、何を守る」


 リオルは何も言えなくなった。


 当然。


 赤竜にとっては、それが当然なのだ。


 何百年も、何千年も。


 財宝の一つ一つを覚え、形を覚え、色を覚え、場所を覚え、気配を覚える。


 盗まれれば、すぐに分かる。


 欠けたものが分かる。


 それは執着ではなく、契約の履行だった。


 メルセナは少しだけ言い方を変えた。


「聞き方を変えます。契約が財宝の守護でなければ、財宝が盗まれたこと自体については、どの程度問題になりますか」


「腹立たしい面はある」


 赤竜は答えた。


「人間が我のものへ手を伸ばした。そのことは不快だ」


「はい」


「しかし、そこは譲歩してもよいところだと思う」


 リオルは驚いて赤竜を見た。


 譲歩。


 赤竜の口から、その言葉が出た。


 メルセナは表情を変えない。


「では、怒りの中心は財宝そのものではありません」


「そうだ」


「中心にあるのは、契約を果たせなかったという認識。そして、その結果として威厳が失われたように感じていること」


 赤竜は、しばらく沈黙した。


 広間の熱が少し揺れる。


「……その整理ならば、そうなる」


「分かりました」


 メルセナは頷いた。


「では、何を直すべきかを確認します」



※第12話「赤竜、交渉か?」は全六回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


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