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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第12話 赤竜、交渉か?

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(一)また盗人か

◆ 一 守護拠点の奥


 ハツカネズミたちは戻った。


 小さな足音が消えると、洞窟の奥は急に広くなったように感じられた。


 いや、実際には広いのだ。


 リオル・ロステルは、熱を帯びた空気の向こうを見る。


 そこは、ただの洞窟ではなかった。


 岩肌には古い加工の跡がある。


 床は天然の洞窟にしては滑らかで、長い年月の間に何度も熱を受けたように、黒く、赤く、艶を帯びている。壁面には、解読できない古い文字が刻まれていた。文字の周囲には壁画のような線もある。人らしき影。竜らしき影。財宝を囲む図。契約陣に似た模様。


 リオルには、ほとんど意味が分からない。


 ただ、ここが昔から何かを守るための場所だったことだけは分かった。


 メルセナ・オルブライトは、歩調を落とした。


 カイル・レイヴァンも剣には手を掛けない。ただ、右手をいつでも動かせる位置に置いている。


 フィン、ガレス、ブリギットの三騎士は、ここにはいない。


 彼らの任務は、赤竜との交渉に参加することではなかった。


 ガーディアンを倒すのではなく、メルセナたちが通過するための時間を作ること。


 メルセナたちが通り抜けた後は、各自の判断で退避し、拠点側の高位召喚士による帰還召喚を受ける手筈になっている。


 無事に戻ったのかどうかを、今ここで確かめることはできない。


 だが、確かめるために振り返ることもできなかった。


 ここから先は、赤竜の領域だった。


 ミレイユも後方の記録位置に残っている。


 ここから先に進むのは、メルセナ、リオル、カイルの三人だけだった。


 リオルは、思わず小さく息を吸った。


 熱い。


 喉が焼けるほどではない。


 だが、吸うだけで体の内側が乾いていくような熱だった。


「ここからは、余計な召喚はしません」


 メルセナが言った。


「ハツカネズミも、鳥も、これ以上は近づけません」


「刺激になるからですか」


「はい。赤竜の領域に、不要な気配を入れる理由がありません」


 リオルは頷いた。


 足元にはもう、ハツカネズミはいない。


 さっきまで自分の周囲にいた小さな命たちは、全て後ろへ戻した。


 ここから先は、探る場所ではない。


 交渉の場所だ。


 通路が開けた。


 リオルは、そこで足を止めそうになった。


 広間だった。


 洞窟の奥に、巨大な空間があった。


 天井は高く、熱で揺らめいて見える。壁には古い術式の残滓が淡く光り、床には複雑な線が薄く残っている。召喚陣なのか、封印陣なのか、契約陣なのか、リオルには分からない。


 そして、財宝があった。


 金貨。


 銀杯。


 宝石。


 古い剣。


 箱。


 壺。


 装飾品。


 魔道具らしきもの。


 それらは、リオルには無造作に積まれているように見えた。


 人間の目には、ただ古い財宝が山のように置かれているだけに見える。


 どれが重要で、どれがそうではないのか。


 何が元からそこにあり、何が欠けているのか。


 リオルには分からない。


 ただ、熱の中に、古い金属と石と魔力の気配が混ざっていた。


 その中央に、赤竜がいた。


 巨大だった。


 赤い鱗は、ただ赤いのではない。火の底のような赤だった。黒く沈む部分と、内側から熱を持って光る部分がある。翼は畳まれているが、それでも広間の一部を覆うほど大きい。爪は岩を割るように床へ沈み、長い尾は財宝の外周を囲むように置かれていた。


 財宝の上で眠る獣ではない。


 守護位置にいる存在だった。


 赤竜の目が、ゆっくりと開く。


 金色の瞳が、メルセナたちを捉えた。


 次の瞬間、広間の熱が跳ね上がった。


「また盗人か!」


 声が、洞窟そのものを震わせた。


 リオルは息を呑む。


 赤竜の首が持ち上がる。


 巨大な翼がわずかに開き、爪が床を掻いた。熱風が広間を叩き、財宝の上に積もった古い塵が舞う。


 カイルが半歩前へ出た。


 剣は抜かない。


 抜けば、交渉ではなくなる。


 赤竜は今にも動き出しそうだった。


 怒っている。


 それは、洞窟の熱だけで分かった。


 空気が鳴り、石が汗をかくように熱を帯びる。


 けれど、赤竜はそこで止まった。


 動けないのではない。


 動けば、守るべきものまで焼くと分かっているのだ。


 怒り狂ってなお、赤竜は守護者だった。


 メルセナは一歩も退かなかった。


 ただ、静かに言った。


「そう見えますか?」


 赤竜の瞳が、細くなる。


「何?」


「私たちは、盗人に見えますか?」


 広間の熱が、さらに重くなる。


 リオルは、心臓が喉まで上がってくるような感覚を覚えた。


 そんな問いを、今、赤竜に向けるのか。


 だが、赤竜はすぐには吠えなかった。


 金色の瞳が、メルセナからカイルへ、そしてリオルへ移る。


 剣を抜いていないカイル。


 小動物を連れていないリオル。


 財宝へ近づこうとしないメルセナ。


 そして、ここへ至るまでのガーディアンの反応。


 赤竜は、それらを見ていた。


「……盗人ならば、正面から来ぬ」


 赤竜が低く言った。


「隠れる。抜ける。奪う。見つかる前に去る」


 熱が、わずかに揺れる。


「だが、おまえたちは違う。我が門番を砕いていない。財宝へ手を伸ばしてもいない。進むために退け、通るために止めた」


 リオルは息を詰めた。


 赤竜は、見抜いている。


 フィンが大ガーディアンを引きつけたことも。


 ガレスが中ガーディアンを押し込みながら深追いしなかったことも。


 ブリギットが小ガーディアンを倒さず、道を消したことも。


 戦うためではなく、通るための布陣だったことを。


「人間は、一枚岩ではない」


 赤竜は言った。


「盗む者もいれば、追う者もいる。隠れる者もいれば、正面から来る者もいる」


 金色の瞳が、再びメルセナを見る。


「ならば」


 赤竜が問う。


「交渉か?」


 メルセナは、一歩だけ前へ出た。


「はい」


 声は静かだった。


「交渉です」



※第12話「赤竜、交渉か?」は全六回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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