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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第11話 ハツカネズミ二百体の地図

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(六)ここから先は交渉です

◆ 六 大ガーディアン


 本隊は中央通路へ向かった。


 ハツカネズミたちの報告では、大ガーディアンは中央を巡回している。


 中央通路を最初から最後まで進むわけではない。


 しかし、赤き間へ至る低い横道へ入るには、どうしても中央の巡回範囲を横切らなければならない。


 フィンが先に出た。


 足音が軽い。


 洞窟内なのに、まるで床に触れていないようだった。


 次の瞬間、白いものが通路の奥で動いた。


 壁かと思った。


 だが、壁ではない。


 白く、滑らかで、巨大な守護体。


 土や石ではなく、焼かれた陶材のような質感。


 人型に近いが、人ではない。


 大ガーディアン。


 それが、中央通路を塞ぐように動いていた。


 リオルは息を止めた。


 大きい。


 ただ大きいだけではない。


 動きに無駄がない。


 鈍重な岩の塊ではなかった。


 大ガーディアンの頭部らしき部分が、本隊の方を向く。


 その前に、フィンが横へ飛んだ。


 短い刃が、白い装甲の表面をかすめる。


 傷はつかない。


 だが、硬い音が洞窟内に響いた。


 大ガーディアンの向きが変わる。


「こっちです。大きい方」


 フィンは軽く笑う。


 大ガーディアンが一歩踏み出した。


 床が揺れた。


 リオルの足元のハツカネズミたちが、一斉に身を低くする。


 フィンは避ける。


 避け続ける。


 攻撃を当てるのではなく、向きを変えさせる。


 大ガーディアンが腕を振るう。


 風圧だけで、岩の粉が舞った。


 フィンはすでにそこにいない。


 背後ではない。


 横でもない。


 大ガーディアンが振り向かなければ見えない、嫌な位置にいる。


「今です。通過」


 メルセナが短く言った。


 カイルが先導する。


 リオルはメルセナに続いて中央通路を横切った。


 ミレイユも記録板を抱えながら続く。


 ガレス、ブリギットが後ろを固める。


 リオルは振り返りそうになった。


 だが、メルセナが言う。


「見ない。進みます」


 フィンはまだ笑っていた。


 大ガーディアンの注意は、完全にフィンへ向いている。


 本隊が通路を抜けた瞬間、フィンは大きく距離を取った。


 倒してはいない。


 傷もほとんどない。


 だが、通れた。


 それが、勝利条件だった。


◆ 七 中ガーディアン


 低い横道へ向かう途中、分岐があった。


 文献とハツカネズミの報告が重なっていた場所。


 そこに、中ガーディアンがいた。


 大ほど大きくはない。


 小ほど速くもない。


 だが、最も嫌な位置に立っていた。


 通路を塞ぎ、こちらの進路を読んでいるように見える。


 リオルは、直感的に分かった。


 これは、放っておくと追ってくる。


 そして、通路の狭い場所で追いつかれれば、逃げ場がない。


「ガレス」


 メルセナが言う。


「任せろ」


 ガレスが前へ出た。


 戦槌を構える。


 中ガーディアンの装甲は、大ガーディアンほど厚くは見えない。


 だが、薄いわけではない。


 白く滑らかな装甲の下に、硬い芯があるようだった。


 中ガーディアンが動く。


 速い。


 重いはずなのに、動き出しが早い。


 ガレスの戦槌が振るわれた。


 洞窟内に、重い音が響く。


 砕けない。


 だが、押される。


 中ガーディアンの足が、半歩ずれた。


 ガレスは追い込む。


 ただし、深くは入らない。


 一撃ごとに、相手の立ち位置だけをずらす。


 通路の中央から、少し横へ。


 分岐の入口から、さらに奥へ。


 中ガーディアンが反撃する。


 ガレスの鎧が鳴った。


 リオルは思わず足を止めそうになる。


「止まらない」


 メルセナが言った。


 その声は低い。


 だが、迷いはなかった。


「ガレスは、倒すために戦っていません」


 リオルは歯を食いしばる。


 ガレスは中ガーディアンの動線を固定している。


 自分たちが通るための時間を作っている。


 カイルが先に進む。


 ミレイユが続く。


 メルセナがリオルの肩を軽く押した。


「今です」


 リオルは分岐を抜けた。


 背後で、もう一度、戦槌の音が響く。


 中ガーディアンが大きく揺れた。


 砕けそうに見えた。


 だが、ガレスは追わなかった。


 一歩下がる。


 通路を離れる。


 任務は、撃破ではない。


 通過時間を作ることだった。


◆ 八 小ガーディアン


 低い横道の入口は、予想以上に狭かった。


 人が一人ずつ、身を低くしなければ通れない。


 ガレスは通れない。


 フィンは通れる。


 ブリギットも盾の角度を変えれば入れる。


 リオルは、ハツカネズミたちを先に戻らせながら、入口へ近づいた。


 その時だった。


 足元の空気が変わる。


 小さな白い影が、壁を蹴って走った。


 小ガーディアン。


 それは本当に小さかった。


 リオルの腰ほどもない。


 だが、弱くはない。


 速い。


 速すぎる。


 床を滑り、壁を蹴り、視界の端から端へ消える。


 ハツカネズミたちが一斉に身を低くした。


 小ガーディアンは、彼らの報告線へ向かっている。


 その前に、ブリギットが盾を置いた。


 金属音は立てない。


 盾の縁を床へ沈めるように置き、道を作る。


 小ガーディアンは正面からぶつからない。


 横へ回る。


 そこには、もう一枚の盾の角度がある。


 ブリギットは追わない。


 長い脚で半歩動く。


 盾を振り回すのではない。


 足の位置を変え、腰を回し、盾を身体ごと回転させる。


 盾の面が、ほんの少し角度を変える。


 それだけで、小ガーディアンが抜けようとした線が消えた。


「盾を、動かしてない……?」


 リオルは思わず呟いた。


 ブリギットは盾を振り回していない。


 盾だけを横へ出しているわけでもない。


 彼女自身が半歩動く。


 足を置き換える。


 腰を回す。


 その結果として、盾の角度が変わる。


 小ガーディアンが抜けようとした場所に、いつの間にか盾の縁がある。


 メルセナが小さく言った。


「盾を動かしているのではありません。盾を持った自分の位置を変えています」


「それで、あんなに速く」


「はい。腕だけで動かすより、身体ごと回した方が速く、崩れにくい」


 小さな白い影は、正面からぶつからない。


 だからこそ、ブリギットも正面から受けない。


 行きたい場所の少し手前に立つ。


 曲がりたい先へ盾の縁を置く。


 逃げたい隙間を、半歩で消す。


 力任せに止めているわけではない。


 盾を振っているのでもない。


 ブリギット自身が動くことで、盾の角度を変えている。


 長身の細い体が、洞窟の狭い入口で奇妙なほど広く見えた。


「速いものほど、選べる道が減ると焦ります」


 ブリギットは静かに言った。


「ですから、追いません。道を消します」


 小ガーディアンは、何度も進路を変える。


 そのたびに、ブリギットは盾の角度と立ち位置だけで、進路を削っていく。


 攻撃していないわけではない。


 だが、打ち倒すための攻撃ではない。


 相手の選択肢を減らすための防御。


 相手を動かし続けるための待ち。


 小ガーディアンの動きに、一瞬の偏りが出た。


 ブリギットが盾を身体ごと回転させる。


 小ガーディアンは横へ流され、低い横道の入口から外れる。


「通過」


 メルセナが言った。


 リオルはハツカネズミたちを呼び戻しながら通る。


 小ガーディアンは倒されていない。


 だが、自由には動けなかった。


 それで十分だった。


◆ 九 ハツカネズミ二百体の地図


 本隊は進み続けた。


 ハツカネズミたちは、壁沿いに戻ってくるもの、先を確認するもの、報告役として走るものに分かれていた。


 遠距離念話ではない。


 小さな偵察員たちが、実際に戻ってくる。


 そのたびに、リオルが受け取り、言葉にする。


「右、熱い」


「左、穴」


「床、震える」


「つるつる、遠い」


「小さい足音、近い」


 ミレイユが記録する。


 カイルが通れる幅を測る。


 メルセナが判断する。


 騎士たちは、戦う場所ではなく、通る場所を選ぶ。


 リオルは、自分が呼んだ小さな命たちが、洞窟の中に地図を作っていくのを見ていた。


 ハツカネズミたちは、言葉では地図を描けない。


 けれど、どこで分かれたか、何がいたか、大きいか小さいか、戻れそうか危ないかは伝えられる。


 右の壁が熱い。


 左に小さな穴。


 床が震える。


 白くてつるつるしたものが動いた。


 それだけなら、ただの断片だった。


 けれど、メルセナは断片を線にした。


 ミレイユが記録し、カイルが通れる幅を測り、騎士たちが戦う場所ではなく、通る場所を選ぶ。


 リオルは、ふと鳥百羽の時を思い出した。


 あの時は、空の断片が人相書きになり、商人へ繋がり、古い魔道具へ辿り着いた。


 今は、壁沿いの断片が洞窟の形になっている。


 鳥とハツカネズミ。


 空と壁。


 違うようで、同じだった。


 呼ぶ。


 任せる。


 戻す。


 報告を受ける。


 傷つけない。


 目的に合わせて使う。


 使い捨てにしない。


 召喚士の仕事は、呼ぶことだけではない。


 リオルは、ようやくそれを少し理解し始めていた。


 奥で、低い音がした。


 岩が鳴ったのか。


 何かが動いたのか。


 それは分からない。


 だが、フィンがすっと後方から戻り、ガレスが息を整え、ブリギットが盾を半歩引いた。


 誰も大声を出さない。


 誰も勝ったとは言わない。


 通るための布陣が、静かに役目を終えていく。


 メルセナは歩調を変えない。


 リオルも、必死にそれに合わせた。


 やがて、熱が強くなった。


 空気が乾く。


 音が吸われる。


 洞窟の奥から流れてくる風が、ただの熱ではなくなる。


 何か大きなものの気配。


 眠っているのか。


 怒っているのか。


 待っているのか。


 リオルには分からない。


 けれど、ハツカネズミたちは分かっていた。


 足元の小さな群れが、一斉に戻りたがる。


 リオルは息をのんだ。


「この先、嫌がってます」


 メルセナは即座に言った。


「全班撤退」


「全部?」


「はい。ここから先は、索敵ではありません」


 カイルが低く言う。


「交渉ですね」


「はい」


 リオルは、ハツカネズミたちへ呼びかけた。


「戻って。みんな戻ってきて」


 小さな足音が、ひとつ、またひとつ、リオルの足元へ集まる。


 第一班。


 第二班。


 第三班。


 第四班。


 分隊から戻った個体。


 壁沿いを走っていた個体。


 途中で怖くなって引き返した個体。


 水を飲み、リオルの袖の近くへ寄る。


 彼らが作った地図は、ここで終わっていた。


 この先に道はある。


 だが、もう探る場所ではない。


 熱い風が、洞窟の奥から流れてくる。


 メルセナは足を止めた。


 その横顔は、いつもより少しだけ硬い。


 それでも声は静かだった。


「ここから先は、交渉です」



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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