(五)一対一の理由
◆ 五 一対一の理由
「騎士さんを、もっと呼ばないんですか?」
リオルは地図を見ながら尋ねた。
大ガーディアン。
中ガーディアン。
小ガーディアン。
どれも避けきれないのなら、人数は多い方が安全に思えた。
だが、メルセナは首を横に振る。
「呼びません」
「どうしてですか?」
「ガーディアンの攻撃方法が分からないからです」
「攻撃方法」
「はい。文献から分かるのは、形状と配置の傾向だけです。遠距離攻撃を持つかもしれない。範囲攻撃を持つかもしれない。通路全体を焼く、砕く、押し潰す、あるいは音や振動で攻撃する可能性もあります」
リオルは洞窟の奥を見る。
暗い通路が、急に狭く感じられた。
「人数が多いと、巻き込まれる?」
「はい。下手に人数を増やせば、一度の攻撃で被害が甚大になります。洞窟内では逃げ場も限られます」
カイルが地図を指す。
「通路の幅も問題だ。人が多ければ、回避する場所を互いに潰す」
「それもあります」
メルセナは頷いた。
「一対一なら、被害を限定できます。さらに、今回呼ぶ騎士たちは、個人での回避能力、生存能力、判断速度が高い。集団で受けるより、一人で避け続けた方が生存確率が高い場合があります」
「一人の方が安全なこともあるんですね」
「あります。特に、相手の攻撃範囲が分からない時は」
リオルは地図の三つの印を見る。
「一対一は、勇敢だからじゃなくて」
「安全設計です」
「人数を減らすことも、防衛なんですね」
「正確です」
メルセナはミレイユへ頷いた。
「拠点へ接続を」
「接続済みです」
ミレイユが通信水晶へ手をかざす。
メルセナは短く告げた。
「三名を呼びます」
洞窟内の少し広い場所に、三つの召喚陣が開いた。
光が立ち上がる。
その中から、三人の騎士が現れた。
一人目は、細身で軽い鎧をまとった青年だった。フィン・ラザフォード。大きな剣は持たず、短い刃と細い槍を組み合わせたような武器を背負っている。立ち姿が軽い。今にも横へ消えそうだった。
二人目は、幅のある体格の騎士だった。ガレス・ヴァルド。重い鎧を着ているが、鈍くは見えない。大きな戦槌を肩に担ぎ、洞窟の暗がりを見ても表情を変えなかった。
三人目は、巨大な盾を持つ女性騎士だった。
ブリギット・エインズワース。
長身で、銀髪の細身の女性だった。背は高いが、鎧越しにも線の細さが分かる。
その腕にある盾は、彼女の体格には少し不釣り合いに見えた。巨大な盾を持っているのに、とても守りに強い騎士には見えない。
だが、足運びだけは奇妙なほど静かだった。
守るために前へ出る者というより、相手が来る場所を先に知っている者に見えた。
三人とも、移動の疲労はない。
装備も整っている。
呼び出された瞬間から、戦える状態だった。
メルセナは地図を示した。
「契約内容を確認します。赤竜討伐ではありません。ガーディアン討伐でもありません。あなた方の任務は、交渉地点へ到達するための護衛、通路確保、ガーディアン対応、撤退路保持です」
フィンが軽く肩を回す。
「倒さなくていい、と」
「はい。進路を変えさせる。足を止める。私たちが通過する時間を作る。それで十分です」
ガレスが低く笑う。
「わかりやすい」
ブリギットは地図を見て、静かに頷いた。
「通るための契約ですね」
「はい」
メルセナは三つの印を指す。
「大ガーディアンは中央通路。フィン、あなたが引きつけてください」
フィンは軽く笑った。
「嫌われるのは得意です」
「撃破ではありません。中央から外し、こちらが横切る時間を作ること」
「承知」
次に、メルセナは分岐付近を指した。
「中ガーディアンはこの分岐です。ガレス、短時間だけ押し込んでください」
ガレスが戦槌を持ち直す。
「砕けそうでも?」
「砕くことが目的ではありません。動線を固定し、通過時間を作ること」
「承知した。止める」
最後に、メルセナは低い横道の入口を指す。
「小ガーディアンは足元から来ます。ブリギット、リオルと報告線を守ってください」
ブリギットは巨大な盾を静かに構えた。
「追いかけません。待つ方が、わたくしには向いています」
「はい。小型高速型を追えば崩されます。動かし続け、選べる道を減らしてください」
「承知しました。行きたい場所へは行かせません」
リオルはそこで理解する。
これは、勝つための配置ではない。
通るための配置だ。
※第11話「ハツカネズミ二百体の地図」は全六回です。
続きます。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/




