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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第11話 ハツカネズミ二百体の地図

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(四)避けられない三つ

◆ 四 避けられない三つ


 最初の報告役が戻ってきたのは、思ったより早かった。


 第一班のハツカネズミが、リオルの靴の上まで駆けてくる。


 リオルは膝をつき、指先をそっと近づけた。


「どうしたの?」


 小さな鼻が震える。


「みぎ。あつい」


「右の壁が熱い」


 ミレイユが記録する。


「第一班、右通路右壁。熱反応」


 別のハツカネズミが戻る。


「ひだり。すきま」


「左の壁に隙間」


「第二班、右通路左壁。隙間あり」


 次々に、小さな報告が戻ってくる。


 床が震える。


 焦げた匂い。


 低いところを通れる。


 空気が流れている。


 戻る道が分からなくなりそう。


 リオルがニュアンスを受け取り、言葉にする。


 ミレイユが記録する。


 カイルが実際に通れる幅や、後で騎士が動けそうな場所を確認する。


 メルセナが、文献図と照らし合わせる。


 やがて、一匹が戻ってきた。


 そのハツカネズミは、いつもより体を低くしていた。


「つるつる。しろい。うごいた」


 リオルは息を止める。


「白くて、つるつるしたものが動いた、みたいです」


 ミレイユの筆が止まらない。


「ガーディアン候補として記録します」


「大きさは」


 メルセナが聞く。


 リオルはハツカネズミの感覚を探る。


「えっと……壁みたい、だそうです」


 カイルが低く言った。


「大型か」


「大型候補。確定しないでください」


 メルセナは言う。


「どの通路ですか」


「中央寄りです。右通路から見える、広いところ」


「白き門番は中央通路を巡る」


 ミレイユが文献の一節を読み上げる。


「対応する可能性があります」


 また別の報告が戻る。


「ちいさい。はやい。かたい」


 リオルは眉を寄せた。


「小さい、速い、硬い」


「小型ガーディアン候補」


 メルセナが言う。


「場所は」


「足元。壁沿い。近いところを走ったみたいです」


 さらに、別の分隊から戻ったハツカネズミが、床の震えと重い足音を伝える。


 別の個体は、分岐付近に硬いものが立っていたと伝える。


 大きすぎず、小さすぎない。


 通路を塞ぐようにいた。


「中型候補」


 カイルが言った。


 メルセナは、三つの印を地図に置いた。


 大。


 中。


 小。


「大・中・小は、強さの序列ではありません」


 メルセナが言う。


「大は防御寄り。中は防御と速度のバランス型。小は速度寄り。どれも危険です」


「避けられますか」


 リオルが聞く。


 メルセナはしばらく地図を見た。


 文献図。


 ハツカネズミの報告。


 熱の壁。


 低い風。


 戻れた道。


 戻れなさそうな道。


 それらを重ねてから、静かに首を横に振った。


「完全には避けられません」


 リオルの喉が鳴る。


「三体とも、ですか」


「はい」


 メルセナは地図を指す。


「最短だけなら、この中央通路です」


 地図の中央には、赤き間へ真っ直ぐ近づく線がある。


「ですが、この道は途中で複数の巡回範囲が重なります。大ガーディアンだけではありません。中型、小型の反応も近い。ここを通れば、同時に複数のガーディアンへ対応しなければならない可能性が高い」


 リオルは地図を見る。


 中央通路は、確かに赤き間へ近い。


 だが、その近さの分だけ、印が集まりすぎていた。


「じゃあ、安全な道は?」


「あります。ただし遠すぎます」


 メルセナは外側の迂回路を指した。


「熱の強い区域を通ります。戻れない分岐も多い。ハツカネズミたちの報告も不安定です。接触するガーディアン数は減るかもしれませんが、道そのものの危険が増えます」


「最短も駄目。安全そうな道も駄目」


「はい。必要なのは、最短かつ安全な道です」


 カイルが地図を覗き込む。


「条件は?」


「接触するガーディアン数が少ないこと。接触が避けられない場合、一対一に持ち込めること。騎士が回避、誘導、足止めを行うだけの空間があること。そして、私たちが通過できる幅と撤退できる分岐が残っていることです」


 ミレイユが記録する。


「距離だけではなく、戦闘空間も見るのですね」


「はい。今回の戦闘は倒すためではありません。通るためです。騎士が動けない場所では、どれほど近道でも使えません」


 ミレイユが文献の別の行を読む。


「赤き間へ至る道は低い風を持つ」


 その時、右通路担当の報告役が戻ってきた。


 リオルはハツカネズミを両手の間に迎える。


「どうしたの?」


「かぜ。ひくい。みぎ。した」


 リオルは顔を上げた。


「戻ってきた子たちが、右壁沿いに低い風があるって言ってます」


 メルセナの視線が文献へ落ちる。


「文献の『低い風』と一致します」


 ミレイユも頷いた。


「中央ではなく、右壁沿いの低い横道」


 カイルが洞窟図に線を引く。


「狭いが、通れるか」


 別のハツカネズミが戻る。


「ひくい。ひと、ひとり。よこ」


 リオルは少し考えた。


「人が一人、横になれば通れるくらい……たぶん、かなり低いです」


「騎士全員で一度に通るのは無理ですね」


 カイルが言う。


「順番を決めます」


 メルセナは、右壁沿いの低い横道に線を引いた。


「ここを本線にします」


「でも、ガーディアンは避けられないんですよね」


「はい。三度、接触します」


 リオルは息をのんだ。


 メルセナは落ち着いていた。


「ただし、同時ではありません。一体ずつです。大ガーディアンは中央通路を横切る時。中ガーディアンは分岐付近。小ガーディアンは低い横道の入口。順に対応できます」


「一対一にできる」


「はい。それが、この道を選ぶ理由です」


 メルセナは地図を指でなぞる。


「近すぎる道では、複数を同時に相手取る危険がある。遠すぎる道では、熱と分岐で消耗する。この道なら、接触数を三つに抑え、すべて一対一に分けられます。さらに、それぞれの場所に騎士が動ける空間があります」


「だから、ここが最短かつ安全な道」


「正確です」


 メルセナは通信水晶へ視線を向けた。


「ここからは、通るために騎士を呼びます」



※第11話「ハツカネズミ二百体の地図」は全六回です。

続きます。


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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