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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第11話 ハツカネズミ二百体の地図

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(二)二百体

◆ 二 二百体


 洞窟の入口は、思ったより低かった。


 人が二人並んで入れる程度の幅はある。


 だが、天井は高くない。


 中へ入ると、空気が変わった。


 熱い。


 火が燃えているわけではない。


 けれど、乾いた熱が岩から滲み出している。息を吸うと喉の奥が少し痛い。足元の雪はとうに消えていて、岩肌は黒く湿り気を失っていた。


「本当に、ここだけ雪が薄い」


 リオルが呟く。


 カイルが周囲を確認した。


「鳥と追跡獣の報告通りですね」


 ミレイユも古い写しを見ながら言う。


「文献上の旧火守り谷とも一致します」


 メルセナは足を止めた。


「では、索敵を始めます」


 リオルは頷いた。


「ハツカネズミですね」


「はい。洞窟では鳥より向いています」


 小さい。


 隙間に入れる。


 壁沿いに進める。


 足音が小さい。


 分岐を広く確認できる。


 大型ガーディアンに気づかれにくい。


 何より、危険を感じれば戻れる。


 ハツカネズミは戦えない。


 ガーディアンを止めることもできない。


 だが、地図を作ることはできる。


 リオルは洞窟入口の岩陰に膝をついた。


「まず十体、呼びます」


「お願いします」


 リオルは手を合わせる。


 小さな召喚陣が、岩の上に淡く広がった。


「来られる子だけでいい。怖かったら戻っていい。暗いところだけど、道を見てほしい」


 一匹。


 二匹。


 三匹。


 小さな足音が、岩陰に集まる。


 丸い耳。


 細いひげ。


 黒い目。


 ハツカネズミたちは、リオルの足元で鼻を動かした。


 十体が揃う。


 メルセナはそれを見て、静かに尋ねた。


「ちなみに、何体まで呼べますか?」


「魔力量の都合で維持できるのは、二十体くらいです。でも、呼べるかどうかで言えば、たぶん百体はいけると思います」


 カイルが少しだけ眉を寄せた。


「二十体なのか、百体なのか、どちらですか」


「維持できるのが二十体くらいです。呼べるかどうかで言えば、もっといける気がします」


 メルセナは頷いた。


「召喚条件と魔力量上限が別、ということですね」


「たぶん、そうです」


「ならば、委託契約をお願いします」


「鳥の時と同じですか?」


「同じ構造です。あなたが呼び、私が魔力維持の九割を負担します。調査指揮と班分け、報告統合も私が行います。あなたは残り一割と、安心付け、危険時の呼び戻しを担当してください」


「そうすると、二百体まで?」


「あなたが十割負担で二十体なら、一割負担で二百体まで成立します。ただし、召喚対象が応じることが前提です」


 リオルは足元のハツカネズミたちを見る。


「やってみます」


 契約陣が重なる。


 召喚関係はリオルに残る。


 ハツカネズミたちが応じる理由も、リオルとの関係性のままだ。


 ただし、召喚後の魔力維持は、九割をメルセナが負担する。


 鳥百羽の時と同じ。


 リオルが呼び、メルセナが支える。


 そしてメルセナが、使える形へ整える。


 リオルはもう一度、呼びかけた。


「来られる子だけでいい。暗い場所だけど、危なくなったら戻っていい。道を見て、壁を見て、熱いところや怖いところを覚えて戻ってきて」


 召喚陣が広がる。


 小さな足音が増える。


 十体。


 二十体。


 五十体。


 百体。


 岩陰が、小さな命で満ちていく。


 リオルの胸には重さがあった。


 だが、潰されるような重さではない。


 自分の一割が、たしかにハツカネズミたちと繋がっている。


 そして、その九倍の維持を、メルセナが支えている。


 百五十体を超えたところで、カイルが小さく息を吐いた。


「これは……」


 二百体目が召喚陣から現れた時、メルセナもほんのわずかに目を細めた。


「二百体は……すさまじいですね」


「そうなんですか?」


 リオルが聞くと、メルセナは率直に頷いた。


「私もハツカネズミとの契約はありますが、三体程度です」


「先生でも?」


「ええ。他の高位召喚士も似たようなレベルでしょう。用途は、ちょっとした索敵や諜報です」


 リオルは、足元の小さな群れを見た。


「じゃあ、二百体は普通じゃないんですね」


「普通ではありません。しかも、これはあなたの本当の上限ではない可能性があります」


「え?」


「現状では、あなたの魔力量と、委託契約で私が九割負担する都合から二百体にしています。さらに洞窟内で安全に運用できる数としても、ここが上限です」


「呼べるだけなら、もっと?」


「可能性はあります。ハツカネズミは増えるのが早い。関係性が広がれば、召喚条件としてはさらに増える可能性があります」


「でも、そんなに呼んだら維持できません」


「はい。ですから今は二百体です。呼べることと、維持できることと、安全に運用できることは別です」


「別……」


 リオルはその言葉を噛みしめた。


 呼べる。


 維持できる。


 運用できる。


 戻せる。


 全部、別のことだった。


 メルセナはハツカネズミたちを見た。


「高位召喚士は魔力量が多い者が多い。ですが、人間以外の召喚対象との関係性作りに苦労する者も多い」


「魔力があっても、応じてもらえない」


「はい。だから、安易に人間前提の運用へ走る召喚士もいます」


「人間前提?」


「相手が人間であれば、条件と報酬を提示し、契約さえ成立すれば運用できます。動物や精霊のように、長く関係を作る必要がない場合も多い」


 リオルは少し黙った。


「それって、便利ですけど……」


「便利です。軍事運用としても有効でしょう。抑止力として使える面もあります。そこまで含めて、私は否定する気はありません」


「でも」


「はい。危うい職能です。契約で人を動かすことに慣れすぎると、相手を戦力、駒、扱いやすい便利な召喚対象としてしか見なくなる」


「便利な召喚対象……」


「はい。相手が動物でも、精霊でも、人間でも、本来はそれぞれ事情があります。ですが、契約で動かすことに慣れすぎると、その事情を見る前に、使えるかどうかで判断するようになる」


「それが、黒くなるってことですか」


「はい。召喚士は、呼ぶ相手を選べます。条件を提示できます。報酬も決められます。だからこそ、自分が相手をどう見ているのかを、常に疑わなければなりません」


「……はい」


「あなたは、その危うさに触れる前に、動物との関係性を先に越えています」


「僕が?」


「極めて異例です」


「異例……」


「このような召喚士が世に出れば、周囲はどう思うでしょうね」


「えっと……便利、とか?」


「嫉妬。恐怖。尊敬。おそらく、すべてです」


「全部、ですか」


「はい。だからこそ、扱い方を間違えてはいけません」


「ハツカネズミの扱い方を?」


「あなた自身の扱い方もです」


 リオルは、足元に集まるハツカネズミたちを見た。


 彼らはただ、呼びかけに応じて来てくれただけだった。


 けれど、その数が、外からどう見えるのかを、リオルは初めて少しだけ考えた。


「大規模マッピングを想定した運用は、先生も初めてなんですよね」


「はい。すごく新鮮です」


「初めてなのに、そんなにすぐ運用できるんですか?」


「運用の型は変わりません」


「型?」


「召喚対象の性質と、目的を紐づける。そのために必要な事前情報を集める。条件を決め、報告経路を作る。対象がハツカネズミでも、鳥でも、熊でも、基本は同じです」


「だから、初めてでもできるんですね」


「はい。大規模マッピングは初めてですが、召喚マネジメントとしては十分に運用できます」


 リオルはメルセナを見上げる。


「先生、ちょっと楽しそうです」


「無表情です」


「無表情でも、楽しそうです」


「気のせいです」


 そう言いながら、メルセナはすでに洞窟図へ線を引き始めていた。



※第11話「ハツカネズミ二百体の地図」は全六回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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