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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第11話 ハツカネズミ二百体の地図

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(一)まだ騎士は呼ばない

◆ 一 まだ騎士は呼ばない


 西の山脈は、近くで見るほど静かだった。


 静かすぎる、とリオル・ロステルは思った。


 旧火守り谷。


 古い文献にそう記されていた場所は、山脈の奥に細く口を開けている。周囲には雪が残っているのに、谷の底だけは薄い。岩肌は乾き、ところどころ黒く焼けたように見えた。


 鳥たちが嫌がった場所。


 犬が進まなかった場所。


 村人が赤い光を見たという場所。


 文献、聞き込み、鳥、追跡獣。


 ばらばらだった情報が重なった一点が、今、目の前にある。


 メルセナ・オルブライトは、洞窟入口から少し離れた場所で立ち止まった。


「ここから先は、赤竜の領域と考えてください」


 声はいつも通り静かだった。


 だが、周囲の記録担当や連絡係は、その一言で姿勢を改めた。


「大声を出さない。不要な魔法を使わない。金属音を立てない。財宝に触れない。こちらが攻撃され、回避できない場合のみ対応します。基本は通過です」


 カイル・レイヴァンが頷いた。


「交戦条件は、防御または通路確保に限定」


「はい。赤竜討伐ではありません。ガーディアン討伐でもありません」


 メルセナは、洞窟の暗がりを見た。


「今回の目的は、赤竜の前まで到達することです」


 リオルは、その言葉を聞きながら周囲を見回した。


 王国軍の大部隊はいない。


 騎士の姿も、まだない。


 いるのは、メルセナ、カイル、ミレイユ、リオル。そして必要最小限の記録担当と連絡係だけだった。


「あの、騎士の人たちは?」


 リオルが尋ねると、カイルが答えた。


「拠点で待機している」


「ここまで一緒に来ないんですか?」


「来ていない。移動で体力を使わせないためだ」


 メルセナが続ける。


「洞窟内で必要なのは、万全の状態の騎士です。山道を越えさせて疲労させる意味はありません」


「じゃあ、どうやって来るんですか?」


「召喚で呼び出します」


「人間も?」


「契約があれば可能です。今回は短期契約です」


 リオルは、思わず瞬きをした。


 動物や熊や鳥を呼ぶのとは違う。


 人間を呼び出す。


 それは、契約の重さが違う気がした。


 ミレイユ・グレインが通信水晶の光を確認する。


「拠点側との接続は維持できています。帰還支援の短期契約も確認済みです」


「帰還支援?」


 リオルが聞く。


「帰りは、別の高位召喚士に戻してもらいます」


 メルセナが答えた。


「徒歩撤退を前提にしません。交渉後、あるいは緊急撤退時には、拠点側から召喚で回収してもらいます」


「別の高位召喚士?」


 カイルが少しだけ口元を緩めた。


「メルセナ様のお師匠様だ」


「先生の先生……」


 リオルはメルセナを見る。


「先生よりすごい人なんですか?」


「魔力量と召喚マネジメントだけで言えば、現在は私の方が上です」


「言い切った」


「ですが、私の師です。敬意を忘れる理由にはなりません」


「……はい」


 通信水晶の向こうから、短く笑うような気配がした。


 声は届かない。


 だが、メルセナがほんのわずかに姿勢を正したことで、相手がただの協力者ではないのだと分かった。


「じゃあ、今は騎士さんたちを呼ばないんですか?」


 リオルが尋ねる。


「まだ呼びません」


 メルセナは答えた。


「どうしてですか?」


「どこで、何に当てるべきかが分かっていないからです」


 カイルが洞窟入口を見た。


「文献上、ガーディアンがいる可能性は高い。だが、数も位置も、動きも、通路との関係もまだ不明だ」


「先に地図を作ります」


 メルセナが言った。


「騎士を呼ぶのは、その後です」


 リオルは洞窟の暗がりを見た。


 まず、地図。


 戦うためではなく、通るための地図。


 その地図を作るのは、騎士でも軍でもなく、自分が呼ぶ小さな命たちだった。



※第11話「ハツカネズミ二百体の地図」は全六回です。

続きます。


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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