(五)旧火守り谷
◆ 六 重なりすぎています
夕方には、机の上の地図が印で埋まり始めていた。
文献調査班は、旧地名と現在地名の対応表を作った。
聞き込み班は、赤い光と山道の異常をまとめた。
鳥班は、空から見た山肌と谷の位置を報告した。
追跡獣班は、地上で動物が進まなかった地点を記録した。
ミレイユが、古い地名を現在の地図へ置き換える。
「文献上の旧地名を現在地図に置き換えると、この山域になります」
カイルが別の印を重ねる。
「聞き込みで赤い光が出た場所も、同じ山域です」
リオルも鳥の報告を見ながら言った。
「鳥たちが嫌がった谷も」
追跡獣担当が続ける。
「犬が進まなかった地点も重なります」
メルセナは地図を見下ろした。
しばらく黙る。
それから、静かに言った。
「重なりすぎています」
リオルはその言葉を聞き返した。
「重なりすぎている?」
「はい。偶然として扱うには、情報源が別々です」
メルセナは指で一つずつ印を示す。
「文献。聞き込み。鳥。追跡獣。全てが同じ山域を指しています」
カイルが地図の一部を拡大した写しを置いた。
「洞窟入口候補は三つ」
ミレイユが文献の写しと見比べる。
「うち二つは、地形と文献が合いません。一つは谷の向きが違います。もう一つは、古い記録にある水脈の位置と合いません」
「残る一つ」
メルセナが言った。
リオルは、その一点を見る。
西の山脈。
旧火守り谷。
その奥。
岩の間にある、黒い穴。
「そこが、赤竜の洞窟」
「可能性が最も高いです」
メルセナは完全確定とは言わなかった。
だが、次に向かう場所としては十分だった。
カイルが確認する。
「西の山脈、旧火守り谷。その奥の洞窟」
ミレイユも記録する。
「文献、証言、鳥班、追跡獣班、すべてがそこを指しています」
リオルの胸が重くなる。
ついに、見つかった。
赤竜の戻る場所。
守っていた場所。
怒りの中心かもしれない場所。
「行くんですか」
リオルが尋ねる。
メルセナは答えた。
「すぐには行きません」
「どうしてですか?」
「赤竜だけではない可能性があります」
カイルが低く言う。
「ガーディアンですね」
「はい」
メルセナは古い図へ視線を落とした。
「赤竜の洞窟に至る前に、守護体がいると見た方が安全です」
「西の山脈の守護者……」
リオルは呟いた。
メルセナが頷く。
「赤竜だけが守護者とは限りません」
地図の上には、いくつもの印が重なっている。
古い地名。
赤い光。
薄い雪。
熱い谷。
鳥が嫌がった場所。
犬が足を止めた地点。
ばらばらだった情報が、西の山脈の一点へ重なっていた。
旧火守り谷。
その奥の洞窟。
そこに、赤竜がいる。
そして、おそらく赤竜だけではない。
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