(三)赤き翼の守護竜
◆ 三 古い名前
最初にまとまった報告を持ってきたのは、ミレイユだった。
手には、複数の写しと古い地図がある。
「文献班から報告です。西の山脈に、古い守護拠点の記録があります」
リオルは顔を上げた。
「守護拠点?」
「古代召喚士が管理した洞窟、あるいは財宝保管庫のようなものです。ただし、地名が現在と一致していません」
メルセナはすぐに言った。
「旧地名と現在地名の対応表を」
「作成中です」
ミレイユは古い地図を広げる。
現在の地図とは、川の流れも村の位置も少し違っている。
山脈の呼び名も違う。
「文献では、西嶺、火守り谷、赤き翼の守護竜という語が出ています。さらに、それとは別に、白き門番、あるいは翼持たぬ守護体という記述もあります」
「赤き翼の守護竜」
リオルが呟く。
それは、赤竜のことに聞こえる。
だが、メルセナはすぐに釘を刺した。
「断定しません」
「はい」
「ただし、候補としては強い」
カイルも別の写しを手にしていた。
「問題は、その別記述です。赤竜以外にも守護者がいた可能性があります」
「赤竜以外?」
リオルは思わず聞き返す。
ミレイユが頷いた。
「白き門番。翼持たぬ守護体。文献によって表現は違いますが、赤竜とは別のガーディアンを指している可能性があります」
「ガーディアン」
「はい。赤竜とは別の守護体です。洞窟や保管庫の入口付近に置かれていた可能性があります」
ミレイユは、劣化した図の写しを机に置いた。
黒ずんでいて細部は分からない。
だが、人型に近い輪郭だけは見える。
カイルが目を細める。
「ゴーレムの類か」
「そう見えます。ただし、土精霊由来の土や石ではなさそうです」
「土じゃないゴーレム?」
リオルが首を傾げる。
ゴーレムといえば、土や石でできた重い守護体の印象があった。
メルセナは図を見た。
「古代型の可能性があります。表面が滑らかで、材質は陶材、あるいはセラミックに近い」
「セラミック?」
「焼かれた陶材に近いものです。土精霊系の石や土とは違います」
カイルが腕を組む。
「防御が高そうですね」
「防御だけではありません。古代型なら速度も警戒してください」
「ゴーレムなのに速いんですか」
リオルは思わず言った。
「現在の土精霊系ゴーレムとは別物と見た方が安全です」
メルセナは、図の横に赤で印をつけた。
赤竜。
ガーディアン。
守護拠点。
「まだ戦う相手ではありません」
メルセナは言った。
「ただし、洞窟へ近づくなら、存在を前提にします」
リオルは図を見た。
赤竜だけでも十分すぎるほど怖い。
その手前に、別の守護者がいるかもしれない。
西の山脈という言葉が、急に遠く重い場所に感じられた。
※第10話「西の山脈の守護者」は全五回です。
続きます。
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