(二)僕と先生でできたこと
◆ 二 ここにいていいのか
捜査本部は、急に人が増えた。
王国軍の記録担当。
街道警備の伝令。
ギルド職員。
古い文献を抱えた職員。
犬や狼系の召喚獣を扱う召喚士。
カイル。
ミレイユ。
メルセナ。
その中に、リオルはいた。
鳥班。
そう分類されている。
だが、リオルは自分の手を見ていた。
鳥を呼んだのは自分だ。
百羽が空を飛んだ。
けれど、その百羽を支えたのはメルセナだった。
魔力維持の九割を負担したのも、班分けをしたのも、報告順を決めたのも、鳥の言葉になりきらない断片を報告書へ変えたのも、メルセナだった。
自分はただ、鳥を呼んだだけではないのか。
珍しい召喚条件を持っているだけの見習いが、ここに混じっていていいのか。
地図の前で作業をする大人たちを見ながら、リオルは小さく息を吐いた。
「先生」
「はい」
「僕、ここにいていいんでしょうか」
メルセナが顔を上げる。
「なぜですか」
「鳥百羽って言っても、僕一人じゃ呼べません。維持もできませんでした」
「はい」
「はいって」
「事実です」
「そこは少し否定してほしかったです」
「否定する必要はありません」
メルセナは平然としていた。
「あなた一人では、現時点で鳥百羽を維持できません」
リオルの肩が少し落ちる。
しかし、次の言葉で止まった。
「ですが、私一人でも、鳥百羽は呼べません」
「先生でも?」
「はい」
リオルは思わず聞き返した。
メルセナなら、何でも呼べるような気がしていた。
「私には魔力量があります。維持もできます。指揮もできます」
「はい」
「ですが、鳥たちが私に応じる理由がありません」
「あ……」
リオルは、ようやく気づいた。
鳥たちは、自分に応じて来てくれた。
餌をあげた鳥。
怪我を見た鳥。
その親。
その雛。
近くの群れ。
自分との関係が、思っていたより広がっていたから来てくれた。
魔力量だけでは、あの百羽は来ない。
「あなた一人では、現時点で百羽を維持できない。私一人では、そもそも百羽を呼べない。だから協業しました」
「僕と先生で、できた」
「正確です」
リオルは手を握った。
できなかったことだけを見ていた。
けれど、できたこともあった。
「あなたは今の魔力量では百羽を維持できません」
メルセナは続ける。
「はい」
「ですが、魔力量は成長します。訓練でも上がります。今後、あなたがより多くの鳥を維持できるようになる可能性は十分あります」
「でも、今はできない」
「だから、今見せています」
「見せている?」
「先日の運用は、将来のあなたの姿の一部です」
リオルは言葉を失った。
「鳥百羽を呼び、調査網を作り、報告を整理する。今は私の魔力と管理で補っていますが、将来あなたが近づける姿でもあります」
「僕の、将来」
「はい。できないことを見せているのではありません。できるようになる可能性の形を見せています」
リオルは、窓の外を見た。
数羽の鳥が、屋根の上で羽を休めている。
昨日は、あの何十倍もの鳥が空を飛んでいた。
自分の未来が、あんなふうに広がるかもしれない。
「先生は、それを僕に見せる必要があると思ったんですか」
「あります」
「どうしてですか」
「人は、自分の将来像を知らなければ、努力の方向を間違えます」
リオルは少し笑った。
「先生っぽいです」
「先生ですので」
「そこ、少し嬉しそうですね」
「気のせいです」
メルセナはすぐに地図へ目を戻した。
だが、リオルには少しだけ分かった気がした。
先生でいる理由が、メルセナの中にもあるのだ。
※第10話「西の山脈の守護者」は全五回です。
続きます。
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