(四)赤い包みと黒ずくめ
◆ 五 赤い包みと黒ずくめ
太陽が高くなる頃、鳥たちは五羽単位へ分かれた。
午前中に見た水場、休憩地、街道の曲がり角、森沿いの道。
それぞれを、より細かく見に行く。
太陽が高くなった後の報告は、午前よりも輪郭がはっきりしていた。
「ぷくぷく。赤い包み。水のところ」
「目、細い。あごの毛」
「馬、嫌。荷、熱い」
「黒い人。見えにくい」
リオルは顔を上げた。
「黒い人?」
鳥は小さく羽を震わせる。
「木のかげ。すぐ、いない」
「すぐいない?」
「いた。いない。いた」
リオルは眉を寄せた。
「見失いかけた、ってことかな」
「原文と解釈を分けてください」
メルセナが言った。
ミレイユはすぐに記録する。
「鳥の原文、黒い人、見えにくい、木のかげ、いた、いない、いた。解釈、木陰にいた黒ずくめの人物。鳥が一時的に見失いかけた可能性」
別の鳥が窓枠へ降りた。
「赤い包み、黒い人から、ぷくぷくへ」
リオルは息を止めた。
「赤い包みを、黒い人がぷくぷくの人に渡した?」
鳥は首を傾げてから、短く鳴いた。
「渡した」
さらに別の鳥が鳴く。
「小さい袋、ぷくぷくから、黒い人へ」
「小さい袋?」
「ちゃり」
リオルはカイルを見た。
「お金、ですか?」
「可能性は高いです」
カイルの声が低くなった。
ミレイユは記録板へ線を引く。
「鳥の原文、赤い包み、黒い人からぷくぷくへ。小さい袋、ぷくぷくから黒い人へ。ちゃり。解釈、赤い包みと金銭らしき小袋の交換を目撃した可能性」
「ただし、鳥は取引という概念で報告していません」
メルセナが言った。
「物の移動を見た、という記録です」
「それでも、かなり強いですね」
カイルが言う。
「はい。ただ、商人を確認するには人物特定が必要です」
リオルは鳥たちへ、黒ずくめの人物のことをもう少し尋ねた。
「その黒い人、どんな人だった?」
「黒い」
「黒い髪」
「黒い布、ぼろぼろ」
「黒い服」
「光るの、腰」
「足、音ない」
「見張りの近く。平気」
リオルは少しずつ言葉を拾った。
「黒髪。ぼろぼろの黒いマント。黒い服。腰に短剣みたいなもの。足音がほとんどしない。見張りの近くでも慌てていない」
カイルの表情が変わった。
「街道警備の噂と一致します」
ミレイユも頷く。
「気配を消す盗賊の特徴として残されていた断片とも合います」
メルセナは地図の水場に印を置いた。
「商人と、気配を消す盗賊らしき人物が接触し、赤い包みと金銭らしき袋を交換した可能性がある。ここまでを調査線とします」
「盗賊本人ですか?」
リオルが聞く。
「まだ分かりません」
メルセナは即答した。
「ただし、ただの通行人ではありません」
カイルは地図の第三水場を見た。
「黒ずくめの人物を追いますか」
「追いません」
メルセナの答えは早かった。
「追わないんですか?」
リオルが驚く。
「今すぐには、です。気配を消す盗賊らしき人物は、そもそも見つけにくい。鳥の報告でも、黒い、見えにくい、足音がない、という印象が強く、人物特定に使える情報は少ない」
「黒髪で、黒い服で、ぼろぼろの黒いマントで、短剣みたいなものを持ってる」
「はい。ですが、その情報だけでは候補が広すぎます。しかも相手は、見張りや番犬を抜けるほど隠れることに長けています」
メルセナは、地図上の別の印を指した。
「一方で、商人側は情報が多い」
ミレイユが記録を確認する。
「ぷくぷく。目が細い。あごひげ。赤い包み。荷馬車。第三水場。古物鑑定相談。馬が嫌がった荷」
「はい」
メルセナは頷いた。
「さらに、赤い包みは黒ずくめの人物から商人へ移っています。もし盗まれた物を押さえるなら、今追うべきは商人です」
「盗賊より、物を追う」
「正確です」
カイルも頷いた。
「盗賊本人を追えば、逃げられる可能性が高い。だが、荷馬車を持つ商人なら街道記録に残る。検問にもかかる」
「そして、盗品らしき物を持っている可能性がある」
リオルが言う。
「はい」
メルセナは言った。
「赤竜が探しているのが盗まれた物なら、先に押さえるべきは人ではなく物です」
「商人が犯人だからじゃなくて」
「物に近いからです」
リオルはゆっくり頷いた。
黒ずくめの人物は、確かに怪しい。
だが、怪しいから追うのではない。
今追えるものを追う。
今押さえられるものを押さえる。
それが、調査だった。
※第9話「鳥百羽の報告書」は全六回です。
続きます。
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