(三)ぷくぷくの報告
◆ 四 ぷくぷく
最初の報告は、思ったより早く戻ってきた。
一羽が仮設本部の窓枠に止まり、胸を膨らませた。
「ぷくぷく」
リオルは一瞬、止まった。
「人?」
「ぷくぷく。目、細い」
「人ですね。たぶん」
ミレイユが記録板を構える。
「鳥の表現、ぷくぷく。リオルさんの解釈、体格が丸い人物の可能性」
「たぶん、で記録してください」
メルセナが言った。
「断定しないでください」
「はい」
次の鳥が戻る。
「赤い包み」
別の鳥。
「馬、嫌」
さらに別の鳥。
「熱い。嫌」
リオルは両手を上げた。
「待って、順番に、順番に」
鳥は待たない。
「羽みたい」
「水のところ」
「人、こそこそ」
「赤い布」
「ぷくぷく」
「馬、ぷん」
「道じゃない道」
リオルは頭を抱えそうになった。
「先生、無理です」
「人、荷、馬、場所で分けます」
メルセナは平然としていた。
ミレイユが記録欄を素早く作る。
「人物特徴、荷物特徴、動物反応、場所、時間。鳥の原文、リオルさんの解釈、人間側の照合結果の三欄にします」
「鳥の原文って、ぷくぷくとかですか」
リオルが聞く。
「はい」
メルセナが答える。
「重要です」
「ぷくぷくが重要」
「はい」
「本当に?」
「本当に」
カイルが報告書を覗き込む。
「鳥の『ぷくぷく』は体格ですか」
「たぶん」
「たぶん、で記録します」
ミレイユが淡々と書いた。
鳥たちは、次々に戻ってくる。
人間なら「北東街道の第三休憩地で、丸顔の商人が赤布で包んだ荷を積んでいた」と言うかもしれない。
だが、鳥はそう言わない。
ぷくぷく。
目、細い。
あごの毛。
赤い包み。
馬が嫌がった。
熱い。
羽みたいな模様。
水の近く。
大きい車。
森じゃなくて道。
それだけだった。
それだけなのに、メルセナは捨てない。
並べる。
分ける。
同じ言葉を重ねる。
違う言葉を離す。
「鳥の報告を、報告書にするんですか?」
ミレイユが確認する。
「します」
「そのまま?」
リオルが聞いた。
「そのままでは使えません。鳥の表現、召喚士の解釈、人間側の照合。この三つを分けます」
カイルが頷いた。
「証言と分析を混ぜない」
「はい」
リオルは記録板を見た。
そこには、確かに「ぷくぷく」と書かれていた。
その横に、「体格が丸い人物の可能性」と書かれている。
さらに横には、まだ空欄の照合欄がある。
ぷくぷくは、まだ証拠ではない。
けれど、消されてもいない。
報告書になるための場所を与えられていた。
※第9話「鳥百羽の報告書」は全六回です。
続きます。
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