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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第9話 鳥百羽の報告書

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(二)百羽の空

◆ 二 十羽ずつ


 リオルは外へ出た。


 仮設本部の前に広がる草地には、簡易の召喚陣が描かれている。


 その周囲に、メルセナ、カイル、ミレイユが立つ。


 空は晴れていた。


 煙は遠くに残っているが、風は弱い。


 鳥たちを飛ばすには、悪くない。


 リオルは胸の前で手を合わせた。


「来られる子だけでいい」


 淡い光が足元に広がる。


「怖い場所へは行かなくていい。煙が濃いところや、危ないところには近づかなくていい。見たものを覚えて、戻ってきて」


 一羽。


 二羽。


 三羽。


 小鳥たちが召喚陣から現れる。


 羽の色も、大きさも、少しずつ違う。


 十羽が揃ったところで、メルセナが静かに右手を上げた。


「第一班、調査指揮を受け取ります」


 リオルは頷いた。


「第一班の調査指揮を、メルセナ先生へ委任します。魔力負担は、先生が九割、僕が一割です」


 召喚陣の光が少しだけ変わった。


 同時に、リオルの肩から重さが抜ける。


「……軽くなりました」


「魔力維持の九割はこちらで負担しています」


「本当に違います」


「ただし、あなたの一割は残っています。負担が積み上がれば、そこで止めます」


「はい」


 メルセナは鳥たちを見る。


「あなたたちは、人の集まる場所を見てください。水場、休憩地、道の曲がり角、荷馬車が止まる場所。人が人目を避ける場所。何かを渡している場所。無理に近づかず、見たものを覚えて戻ること」


 鳥たちは首を傾げた。


 メルセナは少し言い換える。


「水のところ。車が止まるところ。木のかげ。人がこそこそするところ。ものが、こちらからあちらへ移るところ」


 数羽が、小さく鳴いた。


 リオルは驚いた。


「先生、鳥に合わせて言い直してるんですね」


「はい。指示は、相手に通る形で出します」


「人間向けの依頼文じゃ駄目なんですね」


「駄目です。鳥に『盗品の流通経路を確認してください』と言っても、鳥は困ります」


「それは僕でも少し困ります」


「あなたは、もう少し困らないようになってください」


「はい」


 第一班が飛び立つ。


 続いて、リオルは第二班を呼ぶ。


 また十羽。


 また、リオルは呼びかける。


 怖ければ戻ること。


 煙に入らないこと。


 竜を見ても近づかないこと。


 見たものを覚えて戻ってくること。


 第二班の調査指揮がメルセナへ委任される。


 魔力負担が、メルセナ九割、リオル一割へ移る。


 メルセナは第二班にも、鳥に通る言葉で行き先を伝えた。


 水のところ。


 車が止まるところ。


 木のかげ。


 人がこそこそするところ。


 ものが、こちらからあちらへ移るところ。


 第三班。


 第四班。


 第五班。


 鳥が増えていく。


 空に、点が増えていく。


 リオルは汗をかいていた。


 それでも、倒れそうな重さではない。


 いつもなら十羽で詰まるところを、メルセナが支えている。


 自分が呼ぶ。


 先生が支える。


 先生が、鳥に分かる形で指揮する。


 それが、今の運用だった。


「まだ続けられますか」


 第六班を終えたところで、メルセナが尋ねた。


「はい。少し重いですけど、まだ大丈夫です」


「鳥たちは」


 リオルは空を見た。


 鳥たちは、嫌がってはいない。


 むしろ、呼ばれたことを不思議がりながらも、空へ散っていく。


「大丈夫そうです。怖がってる子は戻します」


「よい判断です」


 第七班。


 第八班。


 第九班。


 リオルの一割負担は、確かに積み上がっていた。


 胸の奥に、薄い重さがある。


 だが、限界ではない。


 鳥たちとの繋がりは切れていない。


「第十班、調査指揮を受け取ります」


 メルセナが最後の班を受け取った時、空には百羽の鳥がいた。


 リオルは息を吐いた。


「百羽……」


「成立しましたね」


 メルセナが言った。


「僕、そんなに呼べたんですか」


「あなた一人の魔力量で維持しているわけではありません」


「はい。それは分かります」


「ですが、呼んだのはあなたです」


 リオルは空を見上げた。


 百羽の鳥が、十の流れに分かれていく。


「どうして、こんなに来てくれたんでしょう」


「おそらく、あなたの関係性が個体で止まっていないからです」


「個体で止まっていない?」


「親鳥。その雛。さらにその雛。同じ餌場にいた鳥。近くの群れ。あなたに応じた鳥の周囲にいる鳥たちへ、関係が広がっている可能性があります」


「僕が直接知っている鳥だけじゃない」


「はい。ただし、これは推測です」


「推測」


「実際に百羽が応じた。その結果から見た推測です。最初から百羽呼べると分かっていたわけではありません」


 リオルは、空を飛ぶ鳥たちを見た。


 自分が呼んだ。


 けれど、自分だけで支えているわけではない。


 自分が知っている鳥だけが来たわけでもない。


 関係が、思っていたより広かった。


「僕が呼び、先生が支えて、先生が使える形にする」


「はい」


 メルセナは地図を広げた。


「ここからが本番です」


◆ 三 十チームの空


「百羽を十羽一組、十チームにします」


 メルセナは地図の上に十の印を置いた。


「第一班、ロウゼ村周辺。第二班、カンナ村周辺。第三班、北東街道北側。第四班、北東街道南側。第五班、休憩地と水場。第六班、古物商が立ち寄る市周辺」


 ミレイユがそのまま記録する。


「第七班、避難民の移動路。第八班、荷馬車の迂回路。第九班、森の縁と山側へ続く地形。ただし、焼け跡の奥や熱の残る場所には近づかない。第十班、予備、連絡、再確認」


「熱いところには行かせないんですね」


 リオルが確認する。


「行かせません」


 メルセナは即答した。


「今回は赤竜を探す調査ではありません。人と荷の流れを見る調査です」


「はい」


「各班は十羽一組。先頭、左右、後続、戻り役を作ります。見落としを減らし、迷子を避けるためです」


 カイルが地図を見ながら言う。


「最初から五羽ではないのですね」


「最初は目印合わせが必要です」


 メルセナは答えた。


「鳥の目印と人間の地図は違います。鳥は川の光り方、屋根の色、木の形、風の流れで覚えます。人間は村名と街道名で記録します」


 リオルは思い出した。


 鳥にとっての道と、人間にとっての道は違う。


 鳥は地図を見て飛ぶわけではない。


「太陽が最も高くなったら、各班は五羽ずつに分かれてください」


「鳥たち、正午って分かるんですか?」


「人間の時刻は分かりません。だから太陽の高さで伝えます」


「太陽が一番高くなったら」


「はい。鳥に通る言葉で指示します」


 カイルが頷く。


「十羽で広く、太陽が高くなった後は五羽で細かく」


「はい」


 ミレイユが記録欄を二つに分けた。


「太陽が高くなる前の報告と、その後の報告で分けます」


「お願いします」


 リオルは空を見上げる。


 鳥たちが、広がっていく。


 百羽。


 ただの数ではない。


 班があり、役割があり、戻る条件がある。


 見に行くものと、見に行かないものがある。


 数が力になるのは、整理する人がいる時だけなのだと、リオルは少しずつ分かり始めていた。



※第9話「鳥百羽の報告書」は全六回です。

続きます。


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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