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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第8話 竜は人を見ていた

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(四)気配を消す盗賊

◆ 六 地図の端の噂


 ミレイユが、ふと記録板をめくった。


「関連未確定の周辺記録に、一件あります」


 メルセナが顔を上げる。


「何ですか」


「北東街道沿いの噂です。気配を消す盗賊」


 リオルは息を止めた。


「あ……前に記録した」


 カイルもすぐに反応した。


「警備が厚い場所を狙う割に、盗品の価値が小さい。人目や番犬を抜ける。魔力感知にかかる痕跡が薄い、という噂でした」


「鍵や扉を物理的にすり抜けるわけではなく、侵入技術が高い盗賊と見ていた件ですね」


 メルセナが確認する。


「はい」


 ミレイユが答える。


「ギルド側では関連未確定の周辺記録として残していました」


 リオルは、地図の端を見た。


 気配を消す盗賊。


 前は、火災に比べれば小さな噂に見えた。


 盗まれた物も大したものではなく、むしろ奇妙なのは、警備が厚い場所ばかり狙うことだった。


 盗賊は探さなかった。


 火災と関係があるとは言えなかったからだ。


 けれど今、その小さな点が、地図の中心へ引っ張られている。


「人間相手なら、可能性としてはあります」


 メルセナは言った。


「赤竜相手には?」


 リオルが尋ねる。


「とても思えません」


 メルセナは即答した。


 リオルは少しだけ肩を落とす。


「でも」


「はい」


 メルセナは続けた。


「現状では、それがもっとも太い線です」


「太い線」


「赤竜が何かを探していた。人間を確認していた。赤竜から何かを盗んだ者がいる可能性がある。赤竜から盗むには、通常の隠密では足りない。そこで、気配を消す盗賊の記録がある」


 メルセナは、一つずつ並べた。


「もちろん、それでも赤竜から盗めるとは思えません。ですが、他の線よりは確認する価値があります」


「犯人だから、ですか」


「違います」


 メルセナはリオルを見た。


「まだ犯人ではありません。調査対象です」


 その言い方に、リオルは少しだけほっとした。


 盗賊は怪しい。


 でも、まだ犯人ではない。


 それを、メルセナは混ぜなかった。


◆ 七 確保する理由


「では、気配を消す盗賊を探しますか」


 カイルが尋ねた。


「探す、では足りません」


 メルセナは答えた。


「確保します」


「確保……」


 リオルはその言葉を繰り返した。


 探すより、ずっと重い。


「犯人としてですか?」


 ミレイユが確認する。


「違います。調査対象としてです」


 メルセナは言った。


 カイルが続ける。


「確認すべきは、赤竜から何かを盗んだのか。盗んだなら何を。どうやって。赤竜の怒りと関係があるのか。無関係なら、なぜ無関係と言えるのか」


「はい」


 メルセナが頷く。


「関係があるなら、原因に近づきます。無関係なら、最も太い線を消せます」


「どちらにしても、確かめないといけない」


「正確です」


 リオルは、避難民の証言を思い出した。


 赤竜は人を見ていた。


 一人一人を、確かめるように。


 もし、本当に誰かを探していたのなら。


 その誰かが見つかるまで、赤竜は止まらないのかもしれない。


「でも、盗賊を捕まえるって、簡単じゃないですよね」


「簡単ではありません」


 カイルが答えた。


「見張りや番犬を抜ける相手です。街道警備だけでは後手に回る可能性が高い」


 ミレイユが記録板を見ながら言う。


「ギルド側の護衛相談、盗難報告、魔力感知記録を洗い直します。正式依頼になっていない相談も含めます」


「王国軍、地方防衛会議、街道警備の巡回記録も再照合します」


 カイルが続けた。


「盗まれた物ではなく、狙われた場所に注目します」


「よいです」


 メルセナは頷いた。


「盗品ではなく、侵入先。警備の厚さ。番犬の有無。見張りの配置。逃走経路。魔力痕跡の有無」


「危険な場所ばかりを選んでいるかどうか」


 リオルが言うと、メルセナは短く答えた。


「はい」


 ミレイユが筆を動かす。


「関連未確定から、調査線へ格上げします。名称は、気配を消す盗賊」


「お願いします」


「確保時の扱いは」


 カイルが問う。


「殺さないでください」


 メルセナの声は、はっきりしていた。


「尋問が必要ですからね」


「それもあります。ですが、現時点で犯人ではありません」


 リオルは顔を上げた。


「まだ、調査対象」


「はい」


「犯人じゃないから、殺してはいけない」


「犯人であっても、殺してよいとは限りません」


「はい」


 リオルは少しだけ背筋を伸ばした。


 調査対象。


 確保。


 犯人ではない。


 言葉が違えば、扱いが変わる。


 扱いが変われば、生死すら変わる。


 メルセナが言葉を重く扱う理由が、また少し分かった気がした。


◆ 八 あり得ない線


 夜が近づいていた。


 仮設本部の窓から、赤い夕暮れが差し込んでいる。


 その色が、リオルには火の色に見えた。


 ミレイユは通信水晶でギルドへ照会を続けている。


 カイルは王国軍と街道警備へ連絡を飛ばした。


 メルセナは地図の前に立ち、黙っている。


 地図には、燃えた二つの村が赤く印されていた。


 その横に、避難民の証言が置かれている。


 赤竜は、何かを探していた。


 人を、一人一人見ていた。


 さらに地図の端には、小さな文字がある。


 気配を消す盗賊。


 リオルはその文字を見つめた。


 前は小さな噂だった。


 火災とは無関係に見えた。


 だから消さずに、でも混ぜずに、地図の端に残された。


 その小さな点が、今は調査線になっている。


「先生」


「何でしょう」


「こういうことがあるから、記録を残すんですね」


「はい」


「今は使わない情報でも」


「後で使うかもしれません」


「でも、無理に繋げない」


「はい」


 リオルは頷いた。


 村を焼いた竜は、ただ暴れていたのではない。


 何かを探していた。


 あるいは、誰かを。


 赤竜が人間を探すなど、通常ではあり得ない。


 だからこそ、あり得ない線を追うしかなかった。


 気配を消す盗賊。


 まだ犯人ではない。


 だが、確かめなければならない者になった。


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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