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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第8話 竜は人を見ていた

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(一)二つの村が燃えた

◆ 一 二つの村


 リグル村の仮設本部に、カイル・レイヴァンが戻ってきた時、彼の外套には灰がついていた。


 その灰が風で飛ばされるより早く、カイルは机の前で姿勢を正した。


「北東方面、二つの村が燃えました」


 リオル・ロステルは、一瞬、言葉の意味を理解できなかった。


「二つ……?」


「はい」


 カイルは地図を広げた。


 リグル村のさらに北東。


 森と街道の間にある、小さな村が二つ。


 そこに赤い印が置かれる。


「ロウゼ村、カンナ村。どちらも火災被害。通常火災ではありません」


 メルセナ・オルブライトは、地図を見たまま尋ねた。


「死者は」


「確認中です。全滅ではありません。避難民は出ています」


 その答えに、リオルは少しだけ息を吐いた。


 全滅ではない。


 だが、それは安心できる言葉ではなかった。


 燃えた。


 二つの村が。


 人が住んでいた場所が。


「ギルドにも避難民の受け入れ依頼が入っています」


 ミレイユ・グレインが通信水晶から顔を上げた。


「負傷者多数。煙を吸った者、火傷を負った者、家族とはぐれた者もいます。証言は混乱しています」


「原因は」


 メルセナが問う。


 カイルは短く答えた。


「目撃証言は一致しています。巨大な赤い竜影。高温の火。森火災と同種の熱痕です」


 赤い竜。


 その言葉だけで、仮設本部の空気が変わった。


 リオルの背中に、冷たいものが走る。


 前回、火災現場でカイルは「竜種由来の可能性」を口にした。


 メルセナは断定しなかった。


 けれど今、証言は赤い竜影を指している。


「赤竜、なんですか」


 リオルの声は、自分でも少し小さく聞こえた。


「目撃上は」


 カイルは言った。


「ただし、個体名も目的も不明です」


 メルセナはしばらく黙っていた。


 表情は変わらない。


 だが、沈黙が重い。


「証言を集めます」


「焼け跡ではなく?」


 リオルが思わず聞いた。


「焼け跡も見ます。ですが、先に生存者です」


「どうしてですか」


「生存者の記憶は、時間とともに崩れます」


 メルセナは言った。


「煙、恐怖、痛み、周囲の叫び声。そうしたものが混ざれば、見たものと聞いたものの境目が曖昧になります。今聞くべきものがあります」


 ミレイユがすぐに記録板を抱え直す。


「避難所へ連絡します。証言の記録準備を」


「お願いします」


 カイルが地図上の二つの赤い印を見下ろした。


「王国軍は、第二防衛線の一部を北東へ再配置中です。ただし、赤竜そのものへの即時交戦は避けています」


「正しいです」


 メルセナは言った。


「今、無理に当てれば、被害が広がります」


「閣下」


「はい」


「赤竜が次に動く前に、目的を掴む必要があります」


「そのために、証言を聞きます」


 リオルは、地図の上の赤い印を見ていた。


 二つの村。


 燃えた村。


 そして、赤い竜。


 リグル村を守ったばかりなのに、火はもう別の場所へ移っていた。


◆ 二 避難民


 避難所は、リグル村の南側にある空き倉庫を使っていた。


 村人たちが持ち寄った布と毛布が床に敷かれ、負傷者が横になっている。


 焦げた服。


 すすけた顔。


 泣き疲れて眠る子ども。


 誰かの名前を繰り返す老人。


 リオルは足を止めそうになった。


 だが、メルセナは止まらなかった。


 ただし、急がなかった。


 負傷者の間を通る時も、声を荒げることはない。淡々としているのに、不思議と周囲の人間が道を開ける。


 ミレイユは記録板を持ち、村ごとに証言者を分けていた。


「最初に、ロウゼ村の避難者です」


 すすけた顔の男が、椅子に座っていた。


 腕に包帯を巻いている。


 男はメルセナを見ると、立とうとした。


「そのままで構いません」


 メルセナが言った。


「見たことを、順番に話してください」


 男は震える息を吐いた。


「最初から焼かれたわけじゃないんです」


 リオルは顔を上げた。


「竜は、村の上に降りて……見ていたんです」


「見ていた?」


「はい。家を、道を、広場を。まるで、何かを探しているみたいに」


 ミレイユの筆が動く。


 メルセナは口を挟まない。


「誰かが悲鳴を上げて、走って……竜が、そちらを見ました。それから、鼻を鳴らしたんです」


「鼻を?」


 リオルが聞き返す。


 男は、自分でも信じられないという顔をした。


「そう見えました。火を吐いた、というより……熱い息が広がったみたいで。屋根の藁が、一気に燃えました」


 リオルは息をのんだ。


「それは、火を吐いたのとは違うんですか」


「私には分かりません。ただ、竜がこちらを焼こうとして口を開いた、というより……怒った獣が息を荒げたら、村が燃えたように見えました」


 男の声が詰まった。


「でも、燃えたんです。家も、荷も、人も。だから、同じことかもしれません」



※第8話「竜は人を見ていた」は全四回です。

続きます。


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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