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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第7話 気配を消す盗賊

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(四)植物は何を見たか

## 五 植物は何を見たか


 地図に火災範囲を書き込みながら、リオルはふと思った。


 森が焼けた。


 木々が倒れ、草が焦げ、地面に灰が積もった。


 そこにいた動物や魔物は逃げた。


 なら、焼け残った木や草は何かを見ていないのだろうか。


「先生」


「何でしょう」


「植物から話を聞くことってできないんですか?」


 メルセナの手が少し止まった。


「植物から、ですか」


「森が焼けたなら、焼け残った木とか草が、何か見てないのかなって」


 カイルが少しだけリオルを見る。


 ミレイユも記録板から顔を上げた。


 リオルは慌てて付け足す。


「あ、変なこと言いましたか?」


「いいえ」


 メルセナは首を横に振った。


「発想は悪くありません」


「じゃあ」


「ですが、ほぼ不可能です」


「早い」


「植物も召喚対象にはなります。しかし、意思疎通はほぼ不可能です。能動的な行動も期待できません」


「植物も召喚対象になるんですね」


「なります」


「じゃあ、植物召喚って何に使うんですか?」


「受動的な用途です」


 メルセナは指を折りながら説明する。


「木を呼んで防壁にする。蔦で通路を塞ぐ。草木で視界を遮る。根の張った植物で地面を補強する。棘のある植物で侵入経路を狭める。葉や枝で一時的な遮蔽物を作る」


「動いて何かをするんじゃなくて、そこにあることで役に立つ」


「正確です」


 リオルは少し感心した。


 鳥や狼や熊のように動くわけではない。


 それでも、使い道はある。


「でも、それって便利そうです」


「便利です」


「なら、もっと使われてもよさそうですけど」


「使いにくい理由があります」


 メルセナは淡々と言った。


「植物を呼べるということは、その植物を日ごろから世話しているということでもあります」


「世話?」


「召喚対象との関係は、突然作れるものではありません。木でも蔦でも草花でも同じです」


「防壁用の木を呼べる人は、普段からその木を育ててるんですか?」


「多くの場合は」


「大変そうです」


「大変です」


 メルセナはさらに続けた。


「さらに、防壁にするということは、その木が傷つくということです」


 リオルは、すぐには言葉が出なかった。


「攻撃を受ければ、枝が折れます。幹が裂けます。燃やされるかもしれません。切られるかもしれません。踏み潰されるかもしれません」


「あ……」


「普段から世話をしている植物を、戦術のために傷つける。できる召喚士はいますが、多くはありません」


「使えないからじゃなくて、使いたくない人も多い」


「はい」


 リオルは、森の方を見た。


 焼けた木々。


 黒くなった草。


 防壁として呼ばれた植物が、同じように焼かれることを想像した。


 それを自分が育てたものだとしたら。


 便利だから使えばいいとは、とても言えなかった。


「その点、人間は扱いやすい面があります」


 カイルが言った。


 リオルは驚いて振り返る。


「人間が?」


「金、名声、義務、忠誠。理由があれば、人間は自分から危険な場所へ行きます。戦争もします」


「……それ、扱いやすいって言っていいんですか」


「良い言い方ではありません」


 メルセナが答えた。


「ですが、召喚士が黒くなりやすい理由の一つです」


「黒く」


「契約、報酬、名声、義務。それらで人間を動かすことに慣れすぎると、相手を人としてではなく、危険を引き受ける手段として見始めます」


 リオルは眉を寄せた。


「人を、依頼の条件みたいに見てしまうってことですか」


「はい」


 メルセナは静かに頷いた。


「誰が傷つくのか。誰が怖い思いをするのか。誰が帰ってこられないかもしれないのか。そこを見ずに、契約上できるかどうかだけを見るようになります」


「それは、嫌です」


「嫌だと思えるなら、まだよいです」


 リオルは黙った。


 人間は自分で危険な場所へ行く。


 命令され、報酬を受け、名誉を求め、義務で動く。


 それは確かに、植物より扱いやすい面があるのかもしれない。


 動物よりも、契約しやすいのかもしれない。


 だからこそ、怖い。


「だから、何を呼ぶかだけでなく、何を傷つけるのか、誰に危険を引き受けさせるのかを考える必要があります」


 メルセナは言った。


「召喚は、呼ぶ前から始まってる」


「そして、呼んだ後にも責任があります」


 リオルはゆっくり頷いた。


 植物から話を聞けるか、という疑問から、ずいぶん遠くへ来てしまった気がした。


 けれど、遠くではなかったのかもしれない。


 森が焼けた。


 植物は傷ついた。


 召喚士が何を使うかは、何を傷つけるかでもある。


 それは、目をそらしてはいけないことだった。


## 六 照合


 カイルは王国側の報告を並べ直した。


「王国軍側では、北東街道の巡回報告がいくつか上がっています。魔物の移動、避難民の通過、荷馬車の遅延。内容はばらばらです」


 ミレイユもギルド側の記録を確認する。


「ギルド側にも、同じ地域から相談記録があります。護衛依頼、荷の確認依頼、召喚士派遣の問い合わせ。ただし、正式依頼になっていないものも多いです」


「同じ話なんですか?」


 リオルが尋ねる。


「分かりません」


 カイルが答えた。


「同じ出来事を別の言い方で記録している可能性もありますし、ただ同じ地域で別々に起きただけかもしれません」


 ミレイユも言う。


「今は同一視しないでください」


 メルセナが指示した。


「別の点として置く」


「はい」


 カイルが報告書を一枚ずつ確認する。


「近隣村の被害報告は三件。うち二件は火災前、一件は火災後です」


「避難民の証言は食い違っています」


 ミレイユが続ける。


「煙を見た者、魔物を見た者、何も見ていないが家畜が怯えたと話す者」


「ばらばらですね」


「ばらばらでよいです」


 メルセナは言った。


「揃っていないものを、揃っているように扱う方が危険です」


 リオルはその言葉を心の中で繰り返した。


 揃っていないものを、揃っているように扱う方が危険。


 人はきっと、分からないものを見ると、何か一つの形にしたくなる。


 火災。


 魔物。


 盗賊。


 煙。


 家畜の怯え。


 全部が一つの事件に見えた方が、分かりやすい。


 けれど、分かりやすいことと、正しいことは違う。


「では、分類はどうしますか?」


 ミレイユが尋ねる。


「火災、魔物の移動、近隣村、避難民、街道、盗賊の噂。関連未確定で分けてください」


「承知しました」


「盗賊の噂は街道警備側へ回しますか」


 カイルが聞く。


「はい。主調査には含めません」


「探さないんですか?」


 リオルは思わず聞いた。


 気配を消す盗賊。


 奇妙な盗品。


 危険な場所ばかりを狙う動き。


 気にならないわけではない。


「今は探しません」


 メルセナは答えた。


「動機が足りません。火災との関連も未確定です。街道警備の範囲に収めるのが妥当です」


「でも、記録には残す」


「はい」


「今は使わない情報なんですね」


「はい。今は使いません」


 ミレイユの筆が動く。


「では、記録上は関連未確定として残します。近隣村の被害報告、避難民の証言、街道の通行記録、気配を消す盗賊」


「お願いします」


 メルセナは頷いた。


 リオルは、地図の端に書き込まれた小さな文字を見る。


 気配を消す盗賊。


 火災に比べれば、小さな噂に見える。


 現状では、むしろ無関係な別件に見える。


 だが、メルセナはそれを消さなかった。


 焼けた森。


 押し出された魔物。


 その大きな出来事の横に、小さな噂が置かれた。


 気配を消す盗賊。


 盗まれた物は、どれも大したものではない。


 けれど、その盗賊は、なぜか危険な場所ばかりを選んでいた。


 まだ何にも繋がっていないその点を、メルセナは地図の端に残した。


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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