(三)精霊具
◆ 四 精霊具
「広い意味では魔道具に含めることもあります。ですが、性質は少し違います」
メルセナは机の上の小石を一つ取り、地図の端に置いた。
「普通の魔道具は、術式や魔力回路で効果を再現します。魔力を使うため、多くは魔力感知で見つけられます」
「魔力反応があるから」
「はい」
メルセナは、隣にもう一つ小石を置いた。
「一方、精霊具は精霊力そのもの、または精霊との契約痕跡を道具に宿しています。魔力を強く放つわけではないため、魔力感知では見つけにくい」
「じゃあ、盗賊が見つからないのは精霊具だから?」
「可能性の一つです」
メルセナはすぐに言った。
「ただし、精霊具の効果は基本的に小さい」
「小さいんですか?」
「はい。強力な魔法を発動するというより、環境や感覚へわずかに干渉する程度です」
リオルは少し拍子抜けした。
見つからない道具と聞いて、もっと大きな力を想像していた。
「たとえば、風の精霊具なら、足音を少し散らす。匂いを流す。衣擦れの音を風に紛らせる。そうした補助は考えられます」
「透明になるわけじゃない」
「なりません」
「番犬にも気づかれないほどですか?」
「精霊具だけでは難しいです」
カイルが補足した。
「魔力感知に引っかからない。だから精霊具の可能性がある。しかし、効果が小さい。だから使用者本人も手練れでなければ説明がつかない」
「道具だけじゃなくて、盗賊本人もすごいかもしれない」
「はい」
メルセナが頷く。
「盗賊本人の技量。風精霊系の隠密補助。精霊具。認識阻害系の魔道具。噂の誇張。候補はいくつかあります」
「でも、魔道具なら魔力感知にかかりやすい」
「多くの場合は」
「今回は記録が薄い」
「はい。ただし、記録自体が不完全です」
「断定はしない」
「はい」
リオルは自分で言って、少し笑いそうになった。
最近、何度も聞いている言葉だった。
断定しない。
分けて置く。
消さずに残す。
「つまり、その盗賊が精霊具を持ってるかもしれない。でも、それだけでは説明できない」
「正確です」
「火事と関係は?」
「現状では、関係があるとは言えません」
「じゃあ、別件ですか?」
「現時点では、その扱いが妥当です」
「それでも記録には残す」
「はい。噂として残します。結論として扱ってはいけません」
カイルが報告書をまとめる。
「盗賊の件は、街道警備の報告に回します。火災調査とは分けて記録します」
ミレイユも頷いた。
「ギルド側では、関連未確定の周辺記録に入れます」
「それで構いません」
メルセナは言った。
「分けるけど、消さない」
リオルが呟く。
「正確です」
※第7話「気配を消す盗賊」は全四回です。
続きます。
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