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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第6話 北境伯は村を捨てない

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(四)火の奥にあるもの

◆ 七 焼け跡


 村周辺の安全確認を終えたあと、メルセナたちは北の森へ向かった。


 同行したのは、メルセナ、リオル、カイル。


 ミレイユは村に残り、ギルドへの追加報告と被害記録を続けることになった。


 森に近づくほど、焦げた匂いは濃くなった。


 木々の葉は黒く縮れ、地面には灰が積もっている。


 ところどころ、まだ白い煙が細く上がっていた。


 リオルは焼け跡を見回す。


「ここだけ、木の色が違います」


 黒く焦げた木々の中に、灰色を通り越して白く焼けた幹があった。


 まるで火に焼かれたというより、熱そのものに削られたようだった。


「高温で焼かれています」


 メルセナが言った。


 カイルが膝をつき、地面の灰を指先で確認する。


「自然火災では出にくい温度です」


「火魔法ですか?」


「可能性はあります」


 メルセナは焼けた木の表面を見た。


「ただし、通常の火魔法にしては範囲が広い」


「複数人による放火、魔道具、または大型の火属性存在」


 カイルが候補を並べる。


 リオルは最後の言葉に反応した。


「大型の火属性存在……」


「まだ断定しません」


 メルセナがすぐに言った。


「先生、今ちょっと何か分かってませんか」


「候補が増えただけです」


「候補が増えた時の閣下は、だいたい何か分かっています」


「カイル」


「失礼しました」


 カイルは少しも失礼した顔をしていなかった。


 リオルは焼け跡の奥を見た。


 木の倒れ方が変だった。


 風に押されたなら、同じ方向へ倒れるはずだ。


 だが、ここでは外へ倒れた木と、内へ倒れた木が混じっている。


 まるで、中心から熱が広がったあと、別の力で押し返されたように見えた。


「鳥を呼びますか?」


 リオルは言った。


「上から見れば、焼けた範囲が分かるかもしれません」


「今は待ちます」


「どうしてですか?」


「火の残りが強い。煙もあります。鳥の負担が大きい」


 リオルは口を閉じた。


 早く調べたい気持ちはある。


 けれど、メルセナは首を横に振った。


「調査のために召喚対象を無理に使ってはいけません」


「相手に無理がないように」


「はい。必要なら使います。しかし、使うなら範囲と高度、戻る条件、異常時の撤退条件を決めてからです」


 カイルがリオルを見る。


「以前の報告より、ずいぶん慎重になっていますね」


「色々ありました」


「よいことです」


 メルセナが言った。


 リオルは少しだけ胸を張りかけて、すぐにやめた。


 まだ褒められるほどできているとは思えない。


 けれど、以前よりは考えられている。


 それだけは、少しだけ分かった。


◆ 八 火の奥にあるもの


 焼け跡の奥に、特に強く焼けた一帯があった。


 そこだけ、空気が違う。


 火はもう見えない。


 けれど、熱ではない何かが、肌の表面に薄く触れる。


 メルセナが膝をつき、灰に手をかざした。


「火の精霊力が残っています」


「火の精霊ですか?」


「違います。火の精霊力に近いものですが、精霊そのものではありません」


 リオルには、よく分からなかった。


 けれど、メルセナの声が少し低くなったことは分かった。


 カイルが周囲を確認しながら尋ねる。


「竜種由来の可能性は」


 メルセナはすぐには答えなかった。


 リオルは思わず聞き返す。


「竜?」


「可能性の一つです」


 メルセナが答える。


「竜って、そんなに……」


「小型竜なら物流や騎乗に関わることもあります」


 カイルが言った。


「ただし、この焼け方は小型竜のものではありません」


 リオルは焼けた地面を見る。


 小型ではない。


 その言葉だけで、想像したくない大きさが頭に浮かんだ。


「大型の竜、ですか?」


「まだ断定しません」


「断定しない、が多いですね」


「断定は、契約と同じくらい重いです」


 メルセナは立ち上がった。


「ここで誤った名前を付ければ、次の判断が歪みます」


「名前を付けると、そう見えてしまう」


「はい」


 リオルはうなずいた。


 迷子探しでも、羊探しでも、最初に決めつけると見落とす。


 今ここで何かを断定すれば、それ以外の可能性を見なくなる。


 火災。


 魔物の移動。


 火の精霊力に近い何か。


 小型ではない竜種の可能性。


 情報は増えている。


 でも、答えにはまだ届いていない。


「この火の原因を調べます」


 メルセナが言った。


「村を守るために?」


「次の村を守るために」


 リオルは森の奥を見た。


 今、リグル村は守られた。


 だが、同じことが別の村で起きたら。


 火がまた魔物を押し出したら。


 次も間に合うとは限らない。


◆ 九 肩書きより広いもの


 森から戻る途中、リオルはぽつりと尋ねた。


「先生は、全部守れるわけじゃないんですよね」


「はい」


 メルセナは否定しなかった。


「でも、守れるかもしれないものを、最初から捨てるのは違う」


「はい」


「それが、北方召喚防衛統括官の責任ですか」


「一部です」


「一部」


「責任は、肩書きより広いことがあります」


 カイルが小さく息を吐いた。


「そして、肩書きより面倒なことも多いです」


「カイル」


「事実です」


 リオルは二人のやり取りを聞きながら、北の森を振り返った。


 メルセナは王ではない。


 領主でもない。


 軍のすべてを動かす者でもない。


 召喚士ギルドを好きに命じられる者でもない。


 それでも彼女は、北の防衛を背負う者だった。


 強いものを呼べるからではない。


 多くを呼べるからだけでもない。


 何を守り、何を通し、何を止めるのか。


 誰に任せ、誰に記録させ、誰に責任を残すのか。


 そうした判断まで含めて、彼女は北方召喚防衛統括官なのだ。


 リオルは少しだけ、自分の手を見た。


 鳥を十羽呼べる手。


 狼にお願いした手。


 熊には指示を出しただけの手。


 まだ、できることは少ない。


 けれど、呼ぶだけでは足りないのだと分かった。


 守るには、見なければならない。


 考えなければならない。


 そして、捨てる前に、本当に選択肢がないのかを探さなければならない。


 遠くで、焼けた森から細い煙が上がっていた。


 火は弱まっている。


 けれど、終わってはいない。


 焼け跡に残る火は、まだ何かを隠していた。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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