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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第6話 北境伯は村を捨てない

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(三)北境伯は村を捨てない

◆ 四 北境伯


 カイルは説明を続けた。


「加えて、メルセナ様には北境伯の称号があります」


「北境伯?」


 リオルは聞き返した。


 また知らない言葉が出てきた。


「それも、先生の肩書きなんですか?」


「はい。辺境伯相当の称号です」


「辺境伯って、領地を持っている貴族ですよね」


「通常はそうです。ただし、北境伯は少し違います」


 メルセナが口を挟む。


「私は領地を持っていません」


「持ってないんですか?」


「はい。一代限りの防衛称号です。北方防衛に関わるため、必要な格を与えられているに過ぎません」


「格」


「会議の席に座るための椅子です」


 メルセナの言い方は妙に簡単だった。


 カイルが少し補足する。


「歴史的には、北境伯が途中から領地を持ち、正式な辺境伯家になることもありました。しかしメルセナ様は、少なくとも現状では領主ではありません」


「じゃあ、リグル村の領主でもない」


「違います」


 メルセナが答える。


「でも、村を守る責任はある」


「北方防衛として、あります」


「難しいですね」


「難しいです」


 メルセナはあっさり認めた。


 リオルは少しだけ安心した。


 先生でも難しいと思うのなら、自分が混乱するのは当然なのだ。


「先生は、領主じゃない。軍の全部を動かせるわけでもない。ギルドの長でもない。でも、北方の召喚防衛には強く関われる」


「よい整理です」


「それで、国の判断にも異議を出せる」


「はい。召喚戦力に関わる防衛判断であれば」


「全部ではない」


「全部ではありません」


 リオルはうなずいた。


 メルセナはすごい。


 けれど、王国そのものではない。


 だからこそ、怒る時には理由があるのだ。


◆ 五 なぜ怒ったのか


 リオルはしばらく考えてから、もう一度尋ねた。


「先生は、村を見捨てるのが嫌だったから怒ったんですか」


「それもあります」


「それも」


「守れない村があることは、私も理解しています」


 リオルは言葉を止めた。


 その言い方は冷たく聞こえた。


 けれど、メルセナの声は冷たくなかった。


「すべてを守る、と言うだけなら簡単です。ですが現場では、戦力、時間、地形、避難状況を見て、守れない判断をしなければならないこともあります」


「じゃあ、今回も」


「違います」


 メルセナは即答した。


「今回の問題は、判断が早すぎたことです」


 カイルが続ける。


「避難は未完了。第二防衛線の構築も未完了。召喚戦力による進路変更案も検討されていませんでした」


「その状態で、村を地図上の損耗枠へ入れた」


 メルセナは静かに言った。


「そこに怒っています」


「守れないかもしれない、じゃなくて」


 リオルは言葉を探した。


「守れるかもしれない方法を試す前に捨てた」


「正確です」


「だから僕も連れてきたんですか」


「はい」


 メルセナはリオルを見た。


「あなたの小動物召喚は、通常戦力では拾えない情報を拾える可能性がありました。現場の選択肢を増やすためです」


「訓練じゃなくて」


「現場です。ただし、あなたを前線に出すつもりはありませんでした」


「先生の管理下で、情報確認と判断補助」


「覚えていますね」


「今のは」


「普通に褒めました」


 リオルは少しだけ笑った。


 怖かった。


 今も、怖い。


 けれど、自分がなぜ連れてこられたのかは分かった。


 戦うためではない。


 先生の判断を助けるため。


 村を守るための選択肢を増やすためだった。


 そこへ、カイルが少しだけ声を低くした。


「閣下。今回の判断は正しかったと思います」


「珍しく前置きがありますね」


「ですが、学生を連れたことへの批判は避けられません」


 リオルは反射的に頭を下げた。


「すみません」


「あなたを責めているのではありません。責められるのは閣下です」


「慣れています」


「慣れないでください。あなたが面倒を増やすたび、こちらも書類が増えます」


 リオルは目を瞬かせた。


「腹心って、こういうことも言うんですね」


「言います。カイルですので」


「親の代からの付き合いです。言わないと増えます」


「何がですか?」


「無茶が」


「必要な無茶です」


 メルセナが言う。


 カイルは表情を変えずに返した。


「その判定を毎回あなた一人でしないでください」


 リオルは、カイルを少し見直した。


 ただ従っている人ではない。


 止める人でもある。


 メルセナが北方の安全装置なら、カイルはそのメルセナに対する安全装置なのかもしれない。


◆ 六 ギルドの記録


 ミレイユが記録板を閉じた。


「ギルド側の初期記録は整いました。今回の件は、救援支援、緊急防衛補助、召喚対象運用記録として残します」


 リオルは首を傾げる。


「召喚士ギルドって、国のものなんですか?」


「直接国が運営しているわけではありません」


 ミレイユが答えた。


「でも、王国と関係はありますよね」


「はい。国からの出資がありますし、召喚士の登録や契約管理、防衛協力も行います。ですから各国ごとの影響下にはあります」


 カイルが補足する。


「ただし、完全な国営組織ではありません。だから、ギルドの記録と王国の命令は、常に同じ意味ではありません」


「それも難しいです」


「難しいです」


 メルセナがまたあっさり認める。


「ですが、召喚士は契約を扱う職です。誰が命じ、誰が責任を持ち、どの記録に残るのかを見なければなりません」


 ミレイユは記録板を軽く叩いた。


「今回の件も、ギルド記録では救援支援。王国側では放棄判断の修正。防衛会議では命令系統の逸脱として扱われる可能性があります」


「同じことをしたのに、記録が違う」


「はい。だから記録は重要です」


 リオルは少しだけ、記録板が怖くなった。


 何をしたか。


 誰が命じたか。


 誰が責任を持つか。


 同じ出来事でも、残され方が違えば、後から見える意味も変わる。


 召喚の依頼文を読む時に、メルセナがしつこく条件と終了を確認させた理由が、また一つ分かった気がした。



※第6話「北境伯は村を捨てない」は全四回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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