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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第6話 北境伯は村を捨てない

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(二)北方召喚防衛統括官

◆ 三 先生は何者なんですか


 状況確認が一段落した頃、リオルはとうとう我慢できなくなった。


「先生、聞いてもいいですか」


「どうぞ」


「先生は、結局どれくらい偉いんですか」


 カイルが軽く咳き込んだ。


 ミレイユの筆も、一瞬だけ止まった。


 リオルは慌てて両手を振る。


「あ、すみません。聞き方が」


「分かりやすい質問です」


 メルセナは平然としていた。


 カイルが小さく息を吐く。


「分かりやすいですが、少し心臓に悪いです」


「私は王ではありません」


 メルセナが言った。


「王国軍の全軍司令官でもありません。召喚士ギルドの長でもありません」


「でも、国の判断を訂正できるんですよね」


「北方召喚防衛に関わる範囲では、異議を出し、現場判断を修正できます」


「北方召喚防衛……」


 リオルはその言葉を繰り返した。


 聞けば聞くほど、長い。


 そして重い。


 カイルが一歩前に出た。


「説明しましょう」


「お願いします」


「メルセナ様の正式な役職は、ヴァルセイン王国北方召喚防衛統括官です」


「召喚防衛統括官」


「その前に、召喚士が国家にとってどういう存在かを説明した方がよいでしょう」


 リオルは首を傾げる。


「戦う人、ではないんですか?」


「戦うこともあります」


 メルセナが答えた。


 カイルは頷く。


「ですが、それだけではありません。戦時の召喚士は、戦場の形を変えます」


「戦場の形?」


「偵察、伝令、物資輸送、負傷者搬送、防衛線の補強、敵の進行方向の誘導、大型魔物への対処、敵召喚士への対抗。召喚士がいるかどうかで、軍の選択肢が変わります」


 リオルは先ほどの村防衛を思い出した。


 鳥で見た。


 熊で流した。


 敬礼熊が止めた。


 魔物を全部倒したわけではない。


 けれど、村は守られた。


「戦うだけじゃない」


「はい。強いものを呼べる召喚士は重要です。しかし、何を、どこへ、どの条件で、どの時間だけ出すかを判断できる召喚士は、さらに重要です」


 リオルはメルセナを見る。


「先生がいつも言ってることですね」


「呼んで終わりではありません」


「平時も同じです」


 カイルは続けた。


「召喚士は国境監視、魔物の移動監視、災害対応、行方不明者の捜索、辺境の防衛支援、召喚契約の登録と管理に関わります」


「平時でも軍事的に重要なんですか?」


「非常に。特に北方は帝国と隣接しています。召喚戦力の配置は、戦争が起きていない時期でも外交的な意味を持ちます」


「外交?」


「強すぎる召喚士を不用意に前へ出せば挑発になる。逆に、召喚戦力が薄いと見られれば侵攻を誘う。だから平時こそ、配置と情報管理が重要になります」


 リオルは少しだけ背筋を伸ばした。


 召喚士。


 それは、鳥を呼ぶとか、狼にお願いするとか、熊を出すとか、そういう単純な話ではなかった。


 国と国の間で、見られている力でもある。


「召喚士って、そんなに重いんですね」


「重いです」


 メルセナは短く言った。


 カイルは地図の上に指を置いた。


「北方には、王国軍、地方防衛会議、召喚士ギルド、各地の登録召喚士が関わります。しかし、それぞれ目的が違います」


「目的が違う?」


「王国軍は軍事的勝利と防衛線を重視します。地方防衛会議は地域全体の損害管理を重視します。召喚士ギルドは契約、登録、召喚士の安全と信用を重視します。村や町は自分たちの生活と生存を重視します」


 リオルは少し考えた。


「全部、大事だけど、同じじゃない」


「その通りです」


 カイルは頷いた。


「その間に立ち、召喚戦力を防衛へどう組み込むかを判断する役職が必要になる。それが北方召喚防衛統括官です」


「軍の人ではないけど、防衛に関わる」


「はい。軍の代わりでも、ギルドの代わりでも、領主の代わりでもありません。召喚戦力という特殊な力を、国家防衛の中で破綻させずに使うための調整役であり、安全装置です」


「大げさです」


 メルセナが淡々と言った。


「事実です」


 カイルも淡々と返す。


 リオルは二人を交互に見た。


「先生が北方召喚防衛統括官なのは、強いからだけじゃないんですね」


「はい。強い召喚対象を呼べるだけでは、その役職は務まりません。契約と制限を設計し、召喚対象を現場に合わせて管理し、国、軍、ギルド、現場の間で防衛判断を調整できる必要があります」


「先生、そのままですね」


「一部です」


「かなりの部分です」


 カイルが言った。


 リオルは少し笑った。


「カイルさんの方が褒めますね」


「褒めすぎです」


「評価です」


 カイルの声はまじめだった。


 メルセナは少しだけ黙った。


 たぶん、反論するのが面倒になったのだと、リオルは思った。



※第6話「北境伯は村を捨てない」は全四回です。

続きます。


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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