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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第6話 北境伯は村を捨てない

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(一)村は残った

◆ 一 村は残った


 リグル村の北側には、焦げた匂いがまだ残っていた。


 魔物の群れは村を外れ、南東街道側へ流れていった。王国軍の第二防衛線がその大半を受け止め、村へ戻ってくる流れは今のところ確認されていない。


 だが、何もなかったわけではない。


 木柵は一部が歪み、下側には板で塞がれた隙間が残っている。畑の端は踏み荒らされ、逃げる途中で倒れた荷車もあった。


 村人に死者は出なかった。


 その一事だけが、この場にいる全員の胸を少しだけ軽くしていた。


 村長は何度も頭を下げた。


「本当に、ありがとうございました。村は……残りました」


 リオル・ロステルは、村長の後ろに並ぶ村人たちを見た。


 泣いている者。


 座り込んでいる者。


 壊れた柵を見つめる者。


 抱えた荷物をまだ下ろせずにいる者。


 助かった。


 けれど、日常がそのまま戻ってきたわけではない。


「全部は守れませんでした。柵も、畑も」


 リオルがそう言うと、メルセナ・オルブライトは静かに答えた。


「村人が残りました。今回はそこが最優先です」


「はい」


「柵は直せます。畑も時間をかければ戻せます。人は、戻せません」


 その言葉は淡々としていた。


 だが、軽くはなかった。


 カイル・レイヴァンが通信水晶から顔を上げる。


「第二防衛線へ流れた魔物は、王国軍が受け止めています。村への再流入は、現時点では確認されていません」


 リオルは胸をなで下ろした。


「よかった……」


「まだよくありません」


 メルセナが言った。


 リオルは思わず顔を上げる。


「え?」


「村を守っただけです。なぜ森が焼けたのかは残っています」


 メルセナの視線は、北の森へ向いていた。


 灰色の煙が、細く空へ上がっている。


 火は弱まっているように見える。


 けれど、完全には消えていない。


 それはまるで、森の奥で何かが息を潜めているようだった。


◆ 二 放棄判断の後始末


 村の集会小屋が、臨時の現地本部になった。


 といっても、机が一つ、椅子が数脚、壁際に村の地図が貼られているだけの場所である。


 ミレイユ・グレインは記録板を広げ、村の被害状況と避難人数を確認していた。


「村内残留者、全員確認済み。重傷者なし。軽傷者七名。家畜の一部が未確認。柵北側に破損、畑北東部に被害。ギルド記録には救援支援として残します」


「お願いします」


 メルセナが短く返す。


 そこへ、カイルが通信水晶を手に戻ってきた。


「閣下。北方臨時防衛会議より確認です」


「内容は」


「放棄判断下の村に対し、閣下が独自に防衛行動を取った件について、説明を求めるとのことです」


 リオルは思わず声を上げた。


「独自に、って……助けたのに?」


「組織は、結果だけでは動きません」


 メルセナは静かに言った。


「結果として村は維持。魔物の主流も第二防衛線へ誘導済み。軍側からの抗議は、現時点ではありません」


 カイルは続ける。


「ただし、防衛会議側は命令系統上の確認を求めています」


「では、説明は簡単です」


「どのように」


「北方召喚防衛統括官として、放棄判断の前提条件が不十分だったため、現場で修正しました」


 カイルは少しだけ目を伏せた。


「そのまま報告すると、会議側は反発します」


「反発してください。次から私を通す理由になります」


 リオルはメルセナを見る。


「先生、怒ってます?」


「怒っています」


「普通に言った」


「怒っていることを隠す理由がありません」


 メルセナの表情はいつも通りだった。


 だが、その声は冷たい。


 村が救われたことと、手続きが正しくなかったことは別なのだと、リオルにも少しずつ分かってきた。


「先生は、国の判断に逆らったんですか?」


「一部、修正しました」


「一部」


「はい。第二防衛線を維持する判断は間違っていません。魔物の主流をそこへ流す必要もありました。問題は、村を現場確認前に損耗枠へ入れたことです」


「損耗枠……」


 その言葉は、何度聞いても冷たい。


「地図上で切られたものは、現場でまだ生きていることがあります」


 メルセナは静かに言った。


「今回は、それを確認する前に切ろうとした。だから怒っています」



※第6話「北境伯は村を捨てない」は全四回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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