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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第5話 敬礼熊は中間管理職

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(三)鳥十羽の確定情報

◆ 三 村の柵


 リグル村へは、ギルドの早馬で向かった。


 馬車では間に合わない。


 カイルが先導し、メルセナがその後ろにつく。リオルはギルド職員が手配した鞍にしがみつくようにして、必死に姿勢を保っていた。


 ミレイユも同行していた。


 片手で手綱を取り、もう片方の腕には革紐で固定した記録板と、小型の通信水晶を抱えている。


 リオルは思わず言った。


「ミレイユさん、乗れるんですね」


「ギルド職員ですから」


「ギルド職員って、馬に乗れるんですか?」


「緊急依頼担当は、乗れないと困ります」


「ギルド職員って大変ですね……」


「はい」


 ミレイユは短く答え、すぐに通信水晶へ視線を落とした。


「第二防衛線、構築中。村側の避難はまだ完了していません」


 カイルが前方を見たまま頷く。


「了解」


 風が顔に当たる。


 道の脇の草が流れていく。


 北の空には灰色の煙が上がっていた。


 近づくほどに、焦げた匂いが強くなる。


 道の脇には、森から逃げてきた小動物の痕跡があった。


 鳥が低く飛び、野兎が草むらへ飛び込む。


 遠くでは、何かが枝を折る音もした。


「魔物が村を襲おうとしているというより、火災で押し出されているのです」


 馬を走らせながら、メルセナが言った。


「住処を失って、逃げている」


「はい。ただし、逃げているから村へ入れてよい理由にはなりません」


「村の人には危ないから」


「その通りです」


 半刻ほどで、リグル村の外れが見えた。


 低い木柵。


 避難する村人。


 森から上がる煙。


 そして、北側の森縁で揺れる、小さな影。


 リオルは息をのんだ。


 魔物だ。


 まだ遠い。


 だが、確実にこちらへ向かっている。


 リグル村は、低い木柵に囲まれていた。


 柵といっても、魔物の大群を防ぐためのものではない。


 畑と家畜を守るための簡易なものだ。


 村人たちは、柵の内側で避難の準備をしていた。


 荷物を抱える者。


 家畜を引く者。


 老人を支える者。


 泣いている子ども。


 まだ全員が逃げられる状態ではない。


 リオルは胸の奥が重くなった。


 この村が、地図の上では放棄扱いにされた。


 その事実が、急に現実味を持った。


「リオル」


「はい」


「鳥を呼びなさい」


 メルセナは短く言った。


「確認するのは三つです。先頭の魔物の位置。後続の流れ。村内の逃げ遅れ」


「はい」


「戦わせる必要はありません。見るだけです」


「分かりました」


 リオルは両手を胸の前で軽く合わせた。


「来られる子だけでいい。上から見てほしい」


 足元に淡い召喚陣が広がる。


 一羽。


 二羽。


 三羽。


 次々と鳥が現れる。


 十羽目が現れたところで、リオルの額に汗が浮いた。


「十羽までです」


「十分です」


 メルセナは地図を広げる。


「三羽は森縁。三羽は後続。二羽は村内。二羽は退避路です」


 リオルは頷き、鳥たちへ向き直った。


「森の端を見て。魔物がどこから出ているか。後ろにどれくらいいるか。村の中で逃げ遅れている人がいないか。南の道が空いているか。見たら戻ってきて」


 鳥たちが一斉に飛び立った。


 空へ上がり、煙の下を避けるように広がっていく。


 待つ時間は長くなかった。


 だが、リオルにはやけに長く感じられた。


 最初の鳥が戻ってきた。


「黒いの、たくさん。前、四十くらい」


 リオルはすぐに復唱する。


「先頭は四十前後」


 ミレイユが記録板へ走り書きする。


「先頭群、四十前後」


 二羽目。


「後ろ、もっと。道みたいに続く」


「後続多数。列になってる」


「後続、多数。列状」


 ミレイユが記録する。


 三羽目。


「前の後ろ、ついてくる。止まらない」


 リオルは顔を上げた。


「先生。後ろの魔物、前についてきています」


 メルセナの目がわずかに細くなる。


「群れ流れですね」


 ミレイユは通信水晶に手を当てた。


「ギルドへ共有します。先頭群四十前後、後続列状。群れ流れの可能性あり」


 さらに鳥が戻る。


「村、中、人いる。南、歩く」


「村内に残留者あり。南側の退避路はまだ使えます」


「村内残留者あり。南側退避路、使用可能」


「柵、低い。下、空くところある」


「柵下に隙間あり」


 ミレイユが顔を上げる。


「柵下の隙間は防衛上の弱点になります。板、荷車、土嚢代わりになるものを村側から集めさせます」


 メルセナが頷いた。


「お願いします」


 ミレイユはすぐに村人の方へ走った。


「煙、こわい。森、まだ出る」


「後続はまだ出ています」


 リオルは報告をまとめながら、地図に印をつける。


 赤い帽子を探した時より、ずっと速く、ずっと怖い。


 だが、鳥たちは見てくれている。


 空から、人間では間に合わない場所を見てくれている。


 メルセナは地図を見た。


「カイル」


「はい」


「先頭群四十前後。後続は列状。村を狙った進軍ではなく、火災に押し出された群れ流れと判断します」


「確定情報として扱いますか」


「扱います。リオルの鳥による複数方向からの確認です」


 カイルは一瞬だけリオルを見た。


 それから、地図へ視線を戻す。


「承知しました」


 メルセナは地図上で、森から村へ向かう線を指でなぞった。


「総数不明の魔物群として正面から受ければ、この村では持ちません。軍の暫定判断は、その見方に基づいています」


「じゃあ、軍が完全に間違っていたわけではない?」


「判断材料だけ見れば、一定の妥当性はあります」


 メルセナは北の森を見る。


「ですが、現場で見るべきものは総数だけではありません。流れです」


「流れ」


「火に追われた魔物は、全てが状況を見て走っているわけではありません。後ろの魔物は、前を走る魔物の背と足音についていきます」


 メルセナは地図の上で、村へ向かう線を少し横へ曲げた。


「牧羊でも、野生の獣でも似たことが起きます。先頭が曲がれば、後続は一拍遅れて曲がる。自分で道を選んでいるように見えても、実際には前の群れに引きずられます」


「群れ流れ……」


「はい。群れ流れです」


 リオルは牧草地の向こうを見る。


 森から出てくる魔物たちは、村を選んで襲おうとしているようには見えなかった。


 ただ、走っている。


 火から逃げている。


 前が走るから、後ろも走っている。


「だから、先頭をそらす」


「正確です」


 メルセナは頷いた。


「先頭を削り、横から圧をかけ、村ではなく南東街道側へ逃げ道を見せます。先頭がそちらへ流れれば、後続も引きずられる」


「全部を倒すんじゃなくて、流れを変える」


「はい。今回の勝利条件は討伐数ではありません。群れ流れを変えることです」


「でも、先頭を止めすぎると?」


「後続が詰まり、横へあふれます。村へ押し込まれる危険が増えます」


「だから、塞がない。逃げ道を残す」


「よいです」


 リオルは小さく息を吸った。


 倒すのではない。


 止めるのでもない。


 群れの先頭を少しずつずらし、後続ごと流れを変える。


 それが、村を守るための戦い方だった。



※第5話「敬礼熊は中間管理職」は全六回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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