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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第3話 十羽の鳥と迷子の森

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(四)空から見えるもの

◆ 七 餌と報酬


 迷子の子どもは、救護班と捜索隊に保護された。


 依頼者である家族が到着した時、子どもはまた泣いた。


 今度は、さっきより安心した泣き方だった。


 リオルは少し離れたところで、それを見ていた。


 自分が助けた、という実感は薄い。


 鳥たちが見つけた。


 メルセナが情報を整理した。


 捜索隊が保護した。


 ミレイユが連絡した。


 その中に、自分も少しだけいた。


 それくらいの感覚だった。


「リオル」


 メルセナに呼ばれ、リオルは振り向いた。


「鳥たちへの対応を」


「あ、はい」


 リオルは鞄から小さな袋を取り出した。


 中には穀物と木の実が入っている。


 地面に少しずつ撒くと、鳥たちが集まってきた。


「ありがとう。助かったよ」


 鳥たちは餌をついばむ。


 リオルは一羽ずつ、怪我をしていないか確認した。


「怖いところに行かせてごめんね。大きいの、倒木だったね」


 鳥は餌をついばみながら、返事のように鳴いた。


 メルセナは、その様子を見ている。


「用意していたのですか」


「はい。来てくれた時に何もないと悪いので」


「いつも?」


「はい。呼ばなくても来ることがありますし」


「なるほど」


「変ですか?」


「変ではありません。かなり重要です」


「重要?」


「あなたは、呼ぶ前から関係を作っています」


 リオルは餌を撒く手を止めた。


「餌をあげてるだけです」


「召喚対象から見れば、それは『だけ』ではありません」


 メルセナは餌をついばむ鳥たちを見る。


「召喚は、術式だけでは成立しません。術式は道です。魔力は道を保つ力です。ですが、道の向こうにいる相手が歩いてきてくれるかは、別の問題です」


「鳥たちが歩いてきてくれた……飛んで、ですけど」


「はい。飛んできてくれました」


「僕が呼んだから」


「あなたに呼ばれてもよいと思っているからです」


 リオルは鳥たちを見る。


 どの鳥も、学校の評価表には載らない。


 低位精霊を一体呼べるかどうかの実習にも出てこない。


 けれど、この鳥たちは迷子を見つけてくれた。


「先生」


「はい」


「僕、召喚士に向いてるんでしょうか」


 メルセナは即答しなかった。


 それが少し怖かった。


 やがて、彼女は言った。


「向いています。ただし、現時点では大きく偏っています」


「偏ってる」


「精霊召喚の基礎は未熟です。魔力量も多くありません。報告整理も未熟です」


「はい……」


「ですが、小さな生き物に応じてもらえる関係を作る力があります」


 リオルは顔を上げた。


「それって、召喚士に必要なんですか?」


「非常に」


 メルセナは淡々と言った。


「召喚士は、強いものを無理やり呼ぶ者ではありません。応じてくれる関係を作り、呼んだ相手が無理なく動ける形に整える者です」


 鳥たちが餌をついばんでいる。


 一羽がリオルの靴の近くまで来て、首をかしげた。


「でも、僕、報告で混乱しました」


「はい」


「鳥たちが一斉に戻ってきたら、何がどこなのか分からなくなりました」


「そこは課題です」


「やっぱり」


「今回、あなたができたことを整理します」


 メルセナは指を一本立てた。


「一つ。鳥を十羽維持できました」


「そこからですか」


「そこからです。普通ではありません」


「でも、十羽が限界です」


「あなたの魔力量では、です」


「え?」


「今日見えた重要点は、十羽呼べたことではありません。十羽で止めなければならないほど、応じそうな鳥がいたことです」


 リオルは少し困った顔をした。


「でも、みんな知ってる子たちです」


「だから呼べたのです」


「知ってるから?」


「はい」


 メルセナは二本目の指を立てる。


「二つ。あなたは鳥に無理をさせませんでした。危険なら戻るよう指示しました」


「危ないところへ行かせたくなかったので」


「それも重要です」


 三本目。


「三つ。情報を持ち帰らせることはできました」


「でも、整理はできませんでした」


「はい。報告経路は未熟です」


「一部だけ褒められてますね」


「一部です」


「残りは課題」


「はい」


 リオルは小さく笑った。


 全部褒められるより、少しだけ落ち着いた。


 できたことがある。


 できなかったこともある。


 それが今日の結果だった。


◆ 八 学校評価と現場評価


 ギルドへ戻る頃には、日が少し傾いていた。


 依頼は無事に完了した。


 迷子は保護され、依頼者から感謝の言葉も受けた。


 ただし、リオルにとって一番印象に残ったのは、鳥たちの報告が散らかった瞬間だった。


 赤い。


 黄色。


 水。


 木。


 怖い。


 人。


 あれだけでは、何も分からなかった。


 けれど、並べれば場所になった。


 組み合わせれば、地図になった。


 ギルドに戻ると、ユナとセリオが待っていた。


 学校側の引率確認で、ダリルと一緒に来ていたらしい。


 ユナはリオルを見るなり、少し安心した顔をした。


「リオル、無事だった?」


「うん。迷子の子も見つかったよ」


「よかった」


 ユナは本当にほっとしたようだった。


 それから、少しだけ複雑そうにメルセナを見る。


「鳥を使ったんだって?」


「うん。十羽」


「十羽?」


 ユナは目を丸くした。


 セリオが横から言う。


「鳥を呼べたところで、召喚士としての評価が大きく変わるわけではない」


 言い方はいつも通りだった。


 けれど、昨日ほどの勢いはない。


 メルセナがセリオを見る。


「現行の学校評価では、そうでしょう」


「……でしょう?」


「しかし、依頼は解決しました」


 セリオは黙った。


 メルセナは続ける。


「評価項目にない能力でも、現場では有効な場合があります」


 ユナが小さく言った。


「学校って、そういうところが面倒ですね」


「制度は、全ての価値を拾えません」


 メルセナは言った。


「だから制度が不要という意味ではありません。評価基準は必要です。ただし、評価基準に入らない能力が存在しないことにはなりません」


 リオルは自分を指さした。


「僕、評価されてるんですか?」


「一部は」


「一部」


「残りは課題です」


「ですよね」


 セリオは少しだけ眉を寄せた。


「鳥十羽が、そんなに珍しいのですか」


「珍しいです」


 メルセナは即答した。


「ただし、珍しいことと、運用できることは別です」


「今日、運用できたのでは?」


「一部は。ですが、報告順を決めていなければ混乱しました。範囲指定が広ければ戻れなかった可能性があります。鳥が見たものを、人間が地図にできなければ捜索には使えません」


 セリオは何か言いかけて、やめた。


 反論する材料が見つからなかったらしい。


 ユナはリオルを見る。


「リオル、すごかったじゃない」


「僕というか、鳥たちが」


「そういうところよね」


「え?」


「別に」


 ユナは少し笑った。


 リオルには、その意味が分からなかった。


 メルセナには、たぶん分かっていた。


 ただし、何も言わなかった。


◆ 九 空から見えるもの


 鳥たちに最後の餌を渡し終えると、夕方の風がギルド前の広場を通った。


 迷子の子どもは家族と一緒に帰っていった。


 捜索隊も戻り、ミレイユは依頼完了の記録をまとめている。


 リオルは、鳥たちが餌をついばむ様子を見ながら、ようやく肩の力を抜いた。


「鳥、役に立ちましたね」


「はい。有効でした」


 メルセナは言った。


「ただし、鳥で全てを探せるわけではありません」


「上から見えない場所があるからですか?」


「はい。茂みの中、倒木の陰、屋根の下、洞穴の奥。上から見えないものには弱い」


 リオルは森の方を見た。


 今回は、赤い帽子と黄色い肩掛けが見えた。


 もし見えなかったら。


 もし子どもが洞穴の中にいたら。


 もし木の根の下に隠れていたら。


 鳥だけでは、見つけられなかったかもしれない。


「今回は、目印が見えたから」


「それが大きいです。目印がなければ、発見は遅れていたでしょう」


「じゃあ、鳥に頼む時は、見える目印が必要なんですね」


「必要です。もう一つ。長距離になるほど、報告地点がずれます」


「鳥が道を覚えられないからですか?」


「いいえ。鳥は鳥なりに覚えています。問題は、人間が目印だと思うものと、鳥が目印だと思うものが違うことです」


「違うんですか?」


「人間は小道、橋、看板、畑の境目を目印にします。鳥は高い木、光る屋根、水の曲がり方、餌場、巣に近い場所を目印にするかもしれません」


 リオルは餌をついばむ鳥たちを見た。


 同じ森を見ている。


 でも、人間と鳥では、覚え方が違う。


「同じ場所を見てるのに、世界が違うんですね」


「はい。ですから、遠くを探す時は、事前にコースを指定する必要があります。どの道沿いを見るのか。どの川を越えないのか。どの丘を回ったら戻るのか」


「そうしないと、鳥が見てきた場所を僕たちが分からない」


「正確です」


 リオルは少し考えた。


 鳥は見ている。


 でも、鳥の見たものを、人間が使える形にしなければならない。


 赤い。


 黄色。


 水。


 木。


 怖い。


 人。


 それをそのまま受け取るだけでは、迷子は見つからない。


「鳥は見てる。でも、人間が使える情報にするには工夫がいる」


「今日のまとめとしては十分です」


「褒めました?」


「一部です」


「また一部」


 リオルは苦笑した。


 けれど、少し嬉しかった。


 鳥たちは、空から迷子を見つけた。


 けれど、空から見えるものが、世界のすべてではない。


 リオルは、見つけることと伝えることの間にも距離があるのだと知った。


 召喚は、呼べば終わりではない。


 鳥を呼べた。


 でも、報告は散らかった。


 情報は集まった。


 でも、使える形にしなければ迷子の場所にはならなかった。


 それでも、今日は見つけられた。


 リオルは鳥たちへ、もう一度小さく頭を下げた。


「ありがとう」


 鳥たちは、返事の代わりに餌をついばんだ。


 それで十分だった。


 メルセナ先生の授業は、教室の床から、少しだけ外へ出た。


 そしてリオルは、自分が思っていたよりも、召喚士という仕事が広いものなのだと知り始めていた。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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