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第5話 門出

「突然のことでよくわからないけど、おれはとりあえずどうしたらいいんだろう?」


シュンは魔石を握った手を見つめながら、草原に座り込んだ。

風が頬を撫で、さっき整えたモンスターたちの残り香のような振動が足元に伝わる。


ユウナは空中でふわりと浮かび、シュンの前で小さく回転した。


「まず強くなって!」

「……強くなる?」


シュンが少し戸惑うと、ユウナはにっこり微笑む。

「そのために、あなたの召喚場所はちょうど良い場所にしたのよ!」


シュンは肩をすくめる。

「異世界って、本当に都合が良いんだな……。」


ユウナは真剣な目でシュンを見つめる。

「あなたがここで強くなることで、世界全体の拍を整えることができる。まずはテンポスの街に向かってほしいの。」


シュンは少し考え込み、口を開く。

「でも、言葉とか通じるのかな?」


ユウナは微笑み、柔らかく答える。

「大丈夫よ。この世界の言葉の概念は『拍』――振動で表現しているの。お互いの脳のイメージを言葉のように伝えてるって感じかしら。

あなたがさっき拍のイメージを具現化していたのと一緒よ。この世界の空気は、あなたがいた世界よりずっとその色が濃いというか……。」


少し考え込み、付け加える。

「あなたたちでいうところの幽霊みたいなものなのかもしれないわね。」


シュンは肩をすくめ、つぶやいた。

「プスプス……考えないことにしよう。」


ユウナはふわりと浮かんだまま、少し寂しそうに見つめる。

「人目につくと困るの。この世界の人々が、私の存在を信仰しているから。」


シュンは眉をひそめた。

「え……そんなすごいの?ユウナ様は。」


「ええ、この世界の人々はリズムを信じているの。私のことは“リズ神様”と呼んで、空気の拍に従うのよ。その力が、そのまま世界を動かしているの。イメージってとっても大事なのよ。」


「あれ……なんで、俺の前ではユウナなの?まるで日本人みたいな。」


ユウナは微笑む。

「それがわからないのよね、あなた何を信仰してたの?」


「いや、無神教だよ。信仰だなんてそんな。」


「そういえば、ずいぶん転生に対する飲み込みが早かったわね、異世界の女神様でイメージするものでもあるの?」


「……あ、もしかして、やばいゲームのやり過ぎだ。」


ユウナは浮かび上がり、少しの時間だけ顕現した姿を強く映し出した。

「私はこの世界の調整をするけれど、ビートランドだけじゃない。ここで長く姿を見せることはできないからね。だから、まずはあなたが一人でテンポスの街に行くのよ。」


シュンは草原の風を受けながら、立ち上がった。

手の中で魔石が温かく光る。

「……よし、一歩ずつだな。」


ユウナは宙に浮かんだまま、そっと手を振る。

「気をつけて、でも楽しんでね。」


風が草原を揺らし、遠くに街の輪郭が見える。

シュンは胸を高鳴らせながら、街へ向かって足を踏み出した。


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