第98話 ゾルデアラ
《ゾルデアラ》。
別名振動増幅薬という。
直径7ミリほどの丸薬で、服用後10分ほどで効果が生まれる。
体の中の振動の効果が約1.2〜1.5倍になる。
全ての能力にバフがかかった状態となり、まさに無双。
例えばレベルが200の者が飲めば、体調や相性などにもよるが300まで一気に膨れ上がることもあるのだ。
「セム、お疲れだったな
今日も大活躍じゃないか」
「ガルワーラー、ありがとう
午前中のみのタスクだけど、これで終われるならありがたいよ」
セムとガルワーラーは二人パーティーを組んだ。今週はずっと一緒にモンスター討伐タスクをこなしている。
「でも、いいのかい?
今までは、僕の友達から仕入れてたんだけど、この3倍位の値段がしたんだよ
君がいいと言うから安く譲ってもらっているけれど、ソルデアラがこの価格で普通手に入るものなのかな?」
「セム、君は何も心配をする必要はないよ
そもそもこの薬は普通に流通しているものではないだろう?
価格なんてあってないようなものだからな
私の出身はフォルムス共和国だから、この国の人間よりはだいぶ安価で入手することが可能なんだよ」
セムは基本的に人の良い奴だ。ガルワーラーの言うことなら何でも信じてしまう。
「このゾルデアラだって、例えば丸薬は飲んでから10分位のタイムラグがあるだろう?
これの原液をそのまま買うことだってできる
それなら飲んだ直後から立ちどころに効果が現れるぞ」
「そんなものが…」
一般的に見れば、ガルワーラーの語る内容はどこか物騒で、怪しげなものだった。
それでもセムが彼を疑うことはなかった。
もちろん、セムが子供のように純粋な心の持ち主だったというのもある。
だが何より、同じ女神真教の仲間を疑うなどという発想自体、彼の中には存在していなかったのだ。
「こっちはちょっと値が張る
だが、いざと言う時のために持っておくのもいいかもしれないな」
「そうなんだね
今、同胞たちがヌァンラを救出しようという話で盛り上がってるんだけど
絶対使えそうだよな、その薬」
ニコリとうなずいた後に、真面目な表情へと色を変えるガルワーラー。
「その通りだ
でもな、君だから話したことだ
女神真教にだって、政府側のスパイは紛れ込んでいるだろうし、俺は信じていない
セム、そう簡単に人に話してくれるなよ
俺たちの目的は、あくまで女神様の御心に従って、布教活動を続けることだろう?」
「うん…よくわかるよ
でも…ヌァンラがいないのは、正直辛すぎるよ」
「それはその通りだ
だけどこの薬の事だって、タラブ政府はどこまで情報を得ているかわからないだろ?
俺たちはあくまで強かに、必ず成功させるつもりでやるんだ」
静かに、そして力強く話すガルワーラーの言葉には、説得力があった。
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月のない夜だった。
電気のないこの世界だが、振動光や発光草であったり、ガスの灯りなどもある程度は普及している。
が、シュンのいた地球と比べると、かなり明かりは少ない。
そんな暗い夜の街を、ひとつの影が動いていた。
バルムドの西の端、人通りの少ないこの通りを、いそいそと歩いて行く。
その影は、とある場所でふと止まると、そこにあった壁をタタタと一定のリズムで叩いた。
ゴトッ。
ただの壁のように見えた場所が扉に変わり、その影は中へと吸い込まれていった。
「ガルワーラー」
「ボルディ、待ったか?」
「いや、少しだけだ
尾行は無いな?」
ガルワーラーはこくりとうなずいた。




