第97話 ビヴァラーグ
王都バルムドの中心にそびえ立つバルムド城。
タラブ王国の政務全般はそこで取り仕切っており、軍における本営もその敷地内にあった。
ビヴァラーグとルパタはそのすぐ近くの一室に呼び出された。
「これはこれは、お歴々の皆さんお揃いで、どうなさいました?」
そこには、タドゥニス以外にも十侍僧の大臣が六人揃っていた。
「ルパタよ、軽口を叩くんじゃない
王国一の頭脳を働かせる時が来たぞ」
「それは誠にありがたいことです、してどうしたら良いのでしょうか?」
タドゥニスは、ルパタの口調に内心イライラとしていたが、いちいちたしなめていては話が進まない。
「ビヴァラーグ将軍、最近この国で流されている噂はご存知か?」
「はあ、あいにく戦時下ですので訓練で忙しくしておりますゆえ存じ上げません
どのようなものでしょうか?」
「このタラブ王国とクロック王国の間で、律同士による拍の対抗戦が行われ、その代表として、ドゥール(奴隷階級)が抜擢されたというものだ」
ビヴァラーグは関心のない様子で、眉ひとつ動かさなかった。
「ああ左様でございますか?
対抗戦の話は存じ上げておりますが、それが民に伝わるとは
一般には伏せてある話でございましょう?
してそれは、誰によって広められたものなのでしょうか?」
「それを話しておったところなのじゃ、間違いなくエイカー、そして女神真教の連中だ」
「なるほど、面倒な奴らですな
では、私がそれを蹴散らしてくれば良いのでしょうか?
それぐらい一週間いただければ、全面的に駆逐してみせますぞ」
「そうしてもらえればありがたいが、どうも話の広まりが多方面に行き届きすぎている
我々の間では、律動連盟が暗躍しているのではないかと疑っているのよ」
「なるほど、また厄介な奴らが出てきましたな
それでは二週間いただきましょう
律動連盟の連中などは、ひとり残らずこのタラブ王国の空気を吸えないようにしてやりましょうか」
「なんとも勇ましいな、頼もしいことよ
だが、律動連盟の拠点はこの国のみならず、全世界に100以上あると言うぞ
それら全てをお前とこの衛兵だけで全滅できると申すか?」
「……それはなかなか難しいことでしょうが、一度この国の連中を全て殲滅し終わった後に、律動連盟は入国不可になるよう法律を作ってしまえば良いのではないでしょうか?
そもそもディルモ教以外の異教徒は、この機会に全て殺害してしまえばよろしかろうに」
タドゥニスも本心はその考えだ。だが、その無謀な案にすぐ同調するほど、この老人は浅慮ではない。
「ビヴァラーグよ、気持ちはありがたい
だが実際にわが国の全軍を持って当たっても、エイカーと女神真教と律動連盟、全てを敵に回して必ず勝てる保証は無いであろうに」
ビヴァラーグは少し首をかしげて見せた。
「はて、そうでしょうか?
ルパタ、どうなんだ?戦力比較としては」
ルパタ大佐はその高く透き通る声で、歌うように言葉を並べたてる。
「はい、二週間となるとなかなか難しいことでしょう
まずそれぞれの団体は国中に散らばって活動しているため、ゲリラ的に戦闘を展開されては、こちらとしてもなかなか手こずるでしょう
律動連盟においては、戦闘が始まった直後に、例えばクロック王国やマガラ国、ピクス国にそれぞれ援軍を求めることができます」
フムフム、と頷くビヴァラーグ。
「どううまく運んでも、全てを殲滅するとなると…
半年はかかりましょうな」
「何!?
ルパタ、ふざけるでないぞ
そう簡単にことが運ぶはずがあるまいて」
タドゥニスは、さすがにイラついてみせる。
「まあ、現在抱えているマガラ国とピクス国との紛争を停戦できればの話ですが」
「ルパタよ、もう良いわ
貴様らの考えは所詮机上の空論であろう
我々の中で既に答えは出揃っておるのじゃ
それらの連携の理由は、ヌァンラの奪還に違いない
わしらディルモ教の政権を転覆させようとしておる
そのために反政府や階級制度に対する不満を煽るような流言を撒いたとしか思えない」
ビヴァラーグとルパタは顔を見合わせた。
間を置いてルパタが口を開く。
「あの…だったらどうだと言うのでしょうか?
マガラとピクスと講和して、エイカーと女神真教をすぐさま叩けばいいので、同じことでは…?」
その言い方にまたタドゥニスはイラついた。
「講和はせぬ、実際前線で死んでるのはエイカーや女神真教のクソどもだ
だいいち講話を申し出たところで向こうが受け入れると思うか?何年この戦争続けていると思っておるのだ」
ルパタはまた少し沈黙して考える様子を見せた。
「……受け入れるでしょう
条件次第ですが」
「聞こうじゃないか
どういう条件だ?」
「まずマガラ国、こちらはもともと国境線上に発見された鉱山がどちらのものかでもめたものでしょう?
元来国境線がはっきりしていなかったのもありますし、現状途中まで発掘が行われていた南側においては我々のものと主張し、北側は彼らのものとしてくれてやりましょう。
そして、戦端を開く発端となった訓練場からの流れ矢でマガラ国の勇士を死なせてしまった件
こちらはその賠償金を払って差し上げましょう」
「ピクス国
こちらはそもそも宗教上の問題でわが国と揉めていたわけで、なかなか収拾がつかないところになっております
ですが、ピクス国を背後で援助しているのがエルトリア共和国である事ははっきりとわかっていることであります
エルトリア共和国と裏で同盟を結び、ともにピクス国を叩くことで確実に戦況はこちらに傾きます
容易く講和まで持っていけることでしょう」
話を聞くにつけ、こめかみに青筋を浮かべ、イライラが収まらなくなってくるタドゥニス。
「誰が貴様の絵空事を本気にすると言うのだ?
政治とは、理想論ではない
その条件でわが政府が納得できるとでも思っておるのか?
ヴィスタティエル王が承諾するはずもないわ」
タドゥニスの発言にきょとんとした顔を見せるルパタ。
「……あのう
王を納得させるのはあなたたちのお仕事なのではないでしょうか?」
「もう良いわ!
貴様などとは会話をする時間がもったいない
二人とも、明日から中央の警備軍として近衛兵とともに城内に待機せよ
特に、獄舎の警備は怠るなよ」
そうはき捨てられると、二人は早々に部屋から出されてしまった。
「ルパタ、口が過ぎたんじゃないか?」
「どうでしょうか?
もし閣下が返答を求められたらどうお答えになるのですか?」
「ふ、確かにな
お前と同じだわ
しかしこの私が大群の指揮ではなく、ひとりの戦士として拍の戦いができる日が来るとは
嬉しいぞ、早く牢破りに来てくれないかの」
「……閣下、あなたのレベルは800に達しておりましょうや
この国で、誰があなたに少しでも抵抗することができましょう」
ルパタは、やれやれといった感じで嘆息した。




