第96話 タラブ軍本営
「どうでした?前線は」
「…どうもしないな
兵は戦って、死んでゆく
それだけだ」
「それだけですか?閣下の任地は今回も最大戦果だったらしいじゃないですか」
その男はニコリとも笑わない。世辞にも慣れた様子で、吐き捨てたように言う。
「ふん、勝つ気がある戦争なら俺ももっとやる気をだすわ
局所だけ回されて小さい戦闘に勝利したところで…」
「はあ…やはり、タドゥニス様はひとえに戦況の長期化を望んでらっしゃいますな」
「…まどろっこしいわ
ピクスの連中など一撃で蹴散らしてしまえばよかろうに、全く腑に落ちぬわ」
首元を覆い尽くすほどの濃い髭を蓄え、鎧のような筋肉に包まれたその男は、周囲の空気を押し潰すような威圧感を放っていた。
だがその顔には、どうしても納得しきれぬ苛立ちが見えた。
「今回の出撃などたった三日だ
それですぐ中央に戻される
どういうつもりだ?俺のいないところはずっと負け戦だ」
「作戦通りなのでしょう
この政府が戦っている敵はピクス共和国ではないのかもしれません」
「…わかるが、これほど露骨にやるか?」
どかっと勢いよく椅子に座る。
ここはタラブ王国正規軍の大本営である。
その男はそこを我が部屋のごとく好きに使っていた。
「閣下、あなたを中央に置くのはエイカーや女神真教を押さえておきたいからではないですか?
奴らもあなたがいる限り物理的な暴動は起こせない」
「…それはそうだろう
しかし、な
内なる敵に備えたところで、他国からの侵攻を許してしまったら本末転倒ではないか
どうせならエイカーも女神真教も、軍を出撃させて、一撃で壊滅させてしまえばよかろうに」
「となれば律動連盟も黙っていないでしょうからな」
「それはどうだろう?
奴らは拍が使えるというだけで、人数はそれほどでもない
その拍においても、この俺に立ち打ちできるものはいるのか?」
「そうですな
閣下どころか、私に勝てるものもおりませんでしょうな」
「そんなものよ
だが、わが軍も拍を使えるものがもう少し増えてほしいものではあるが…」
コンコン。
「誰だ?」
「ビヴァラーグ将軍!ルパタ大佐!タドゥニス様がお呼びです!」




