第94話 流言
「なあ、お前聞いたか?あの話」
「なんだ?」
「タラブ王国とクロック王国で拍使いの対抗戦をやるんだとさ」
「あぁ、どこかで聞いたなぁ
確か代表メンバーの中にドゥール(奴隷階級)がいるんだろう?驚いたぜ
しかもこれって戦時中に行うことか?
全くお上のやる事はわからぬ」
「結構よく知ってるじゃないか
まあつまりさ、ドゥールだろうがナーバ(僧侶)だろうが、一人一人個人の能力なんてものは変わりないってことだよな」
「おい、物騒なこと言うなよ
周りに人がいたらどうするんだ?
俺たちドゥールに才能なんてない
ずっとそう言われてきたじゃないか?」
「じゃあこの状況をどう説明するってんだよ
エイカーの連中が言うにはよ、他の国…ピクスやマガラも、国民全員税率が変わらんのだってよ
俺たちだけだぜ、ドゥール(奴隷階級)、シスラ(一般市民)、異教徒らは、常に重い税を払わされる
それに対し、ナーバ(僧侶)やトイヤ(貴族)は税金なんて生まれてこの方払ったことないんだぞ
自ら勝ち取った栄光だってならわかるが、たまたま生まれ落ちた家がそうだったからなんて、めちゃくちゃな論理だ
俺たちはそれを、ずっと当たり前のように信じ込まされてきた」
「それは本当なのかなぁ?
女神真教のやつらも言ってるけど、信じられねぇなぁ」
「お前さ、そのドゥールの若者がそう簡単に対抗戦の代表になれたと思うか?
その子はな、自ら代表戦の合宿所に乗り込んで行って、大将のナーバを叩きのめして、自分が代表になったらしいぞ
すごい気概じゃないか
お前も自分の目で確かめようとぐらいはしろよ、この世の中の仕組みがどうなってるのか」
「確かに、俺たちは自分の望んだ仕事もできずに、死ぬまでこの重い税を払い続けていかなきゃならんのか…
何かがおかしいって言うなら、それは直さなきゃならんのかな…」
(よし、一丁あがり)
ーーーーーーー
律動連盟はもともと諜報員を大量に抱えていた。それにも増して、今回は臨時的に大量に採用している。もといた人数と合わせるとその数は1000人以上。
それは全てドゥールやシスラなど、ディルモ教の労働者階級の者から雇い入れている。
律動連盟本部からのお達しではない。ダラドの独断だった。
これは賭けだ。これだけの諜報員を雇えば、どう考えても律動連盟が何らかの手引きをしていると、どこからか露見するだろう。
それでもやらなければならなかった。もちろんエイカーも同時にことを運んでいる。
女神真教とはコンタクトを取っていないが、奴らもこの危機的状況で、少しでも光が見えるのなら乗ってくるであろう。
「ダラド、かなり目立った動きになってきたぞ
十侍僧の連中は大慌てだろうな」
バルムド聖拍院の執務室には、いつも通りパダニサとマディエラが詰めていた。
「そうだな、ここまでは順調と言える
かといって、この民の不満をどの方向に持っていくかが俺たちの仕事だからな」
「単純にこちらで先導して政府を叩くわけにはいかないかしら?」
マディエラは意外に好戦的だ。
「はは、まさに一揆だ
でもそれは難しいだろうな
いかに不満が溜まっているとは言え、武器を持って戦うとなると民衆の力なんて知れてるしな
それに大きな戦に発展してしまった時、他国に付け入る隙を与えることにもなる
あとは俺たちにとってまずいのは、律動連盟の本体は俺たちの動きを知らないってことだ
セルミスの本部は、我々が音頭をとってクーデターを始めたと聞いたら慌てるだろうよ」
「それは違いないな
でも、このままじゃ俺たちがやられちまうわけだから、本部の方にも後援を頼むことはできないのか?」
「パダニサ、誰かを動かしたい時は相手方の利益をよく考えろよ
律動連盟本体はタラブ王国政府とがっつり揉めてまでこの国を変えるのに協力すると思うか?
もちろん、女神崇拝はあってこその律動連盟だよ
だけど、連盟本部からしたら俺たちの勝手な行動でここを危機にさらすぐらいなら、十侍僧と協力してそこに何か旨みを見いだすやり方を探すはずだ」
「なるほど…」
「俺たちタラブの民が、この地を愛して行う行動とは相容れないのさ
つまり、時間はない
今やっている流言が、たとえそれが本当のことだとしても意図してやったとばれた時、民衆の心の動きはどうなるかわからないだろ?」
「どうしたらいいのかしら?
クーデターを起こすったって、ダラド、あなたがタラブの王になるわけじゃないんでしょう?」
「当たり前だ、誰もが納得する存在でなくてはならない
ドゥールの中にだってこのままでいいと思ってる人の方がまだ圧倒的に多いわけだからな
それこそ、現政権の中に入っていても、納得できるようなそんな人物でないと… 」
「ヌァンラがいれば…」




