第90話 シュン対ライドン
「ゲームで勝った方が代表って本当ですか?」
「まじかよ、てっきりおれたちは二人とも代表なのかと思ってたよ、師匠どういうつもりなんだろう?」
突然の宣告に狼狽える二人。
てっきり一緒に代表戦を戦うつもりでいたからだ。
「メンバーを決めるのに悩んでるんじゃないのか?
お前たちは二人でゲームをした事はあるのか?」
ない。そういえばない。
二人はいつも一緒にいて、共に強くなってきた。
それでも、お互いに戦ったことは一度もなかった。
シュンにとってライドンは、とてもではないが立ち打ちできる相手ではない。
戦うまでもなく、自分の敗北は目に見えていた。
一方でライドンにとっても、シュンのドラムと自分のドゥンバでは、スタイルが違いすぎる。
バトルしようなどと、考えたことすらなかった。
「ないなあ
しかし、面白そうだな!
シュン、おれに勝てるかな?」
ライドンは勝負を受け入れた。最初は戸惑いもしたが、受けて立つ気持ちになっている。
「君と戦うのか…
いいよ、おれもなんとしてもタラブ王国には行ってみたかったんだ
やるなら勝つつもりで行くよ」
二人とも、表情が引き締まる。
そうと決まれば、あとは勝負を楽しむだけだ。
聖拍院に着くと、二人は訓練室へ案内された。
律動師同士がゲームや修行を行うための場所が、クロニア聖拍院にはいくつも用意されている。
テンポスのような小さな二階建ての建物とは、わけが違う。
強くなるための環境が、ここにはすべて揃っていた。
高い天井。何もない白い壁。
無駄を削ぎ落としたその空間は、精神を統一するのにちょうどいい。
ダンテ寺院の修行部屋も、こんな場所だったな。
ふと、シュンは思い出す。
しばらく待っていると、扉が開いた。
ジルとシュタルクが入ってくる。
「待たせたかしら?」
「あ、いえ
むしろ気持ちの準備が整いました」
「おれはいつでも行けるぜ」
無名の若者二人の戦いに、並ぶ顔ぶれは異様だった。
ジル、シュタルク、エイジーン、アミリア。
クロック王国でも、実力上位に名を連ねる四人。
その全員が、この一戦を見届けようとしている。
「シュン、何か不思議だな
お前と戦うなんて、こんなに身近にいたのに考えたこともなかった」
「そうだね、本当に…
君には感謝してるけど、この戦いは勝ちたいな」
二人の間にはリラックスしたムードの中に程良い緊張感が漂っていた。こういう時が、一番実力が発揮されやすい。
「初めていいわよ」
ジルが合図した。
ブゥン…!
ブゥン…!
二人はお互いに楽器を顕現させる。
シュンのドラムセットは輝く白いラメ入りのもの。ラディックのロゴもきれいに表記されている。
対するライドン。こちらはクロック王国の名物ドゥンバ。それ以外にも左前方には小さなスプラッシュシンバル。
ジルはハッとした。ライドンがシンバルを組み入れているところを、彼女は見たことがない。
「行くぞ、シュン」
「いや、おれが先でもいいかい?」
普段受け身でいることが多いシュンが、珍しく自分の意思をはっきり主張してきた。
「いいぜ、打ってこい!」
「うん!」
シュンの周りに金色の光が浮かぶ。
ドラゴンと戦う以前よりも纏う光が増しているように見える。
BPM130
ドドタチタチタドタチタドタドタチタチタドタチタ
「速いね…」
「ドラムンベースだ、お前が仕込んだやつだな
しかし音がでかい…これを意識しすぎると、ライドンは対処が難しいぞ」
アミリアとエイジーンが戦況を見てつぶやく。
ジルとシュタルクは黙って見つめていた。
「やるな、シュン!」
ライドンの周囲も緑の光で覆われていた。心なしかシュンより光の量は多い。
BPM 130
ドドタスタスタドタスタドタドタスタスタタタタドドン
「こいつ…フィルを入れた
カウンターで返しやがる」
「でも難しいフィルじゃないわ
音量では負けてるし、返しとして強くはないよ」
BPM 135
ドドタチタチタドタチタドタドタチタチタドタチタ
ドドタチタチタドタチタドタドタチタチタタタトトテテ
シュンはドラムセットの利点を生かした。
タムを織り交ぜることで、フィルインに豊かな彩りが加わる。
「シュン…」
(強い…!)
ライドンは、シュンの想像以上の強さに若干焦りを感じていた。
BPM 135
ドドタスタスタドタスタドタドタスタスタドタスタ
ドドタスタスタドタスタドタドタスタドドドドタカタカ
「うまくこなしてるようだけど、これって」
「ああ、ちょっとシュンが押してるかもな」




