第87話 宝物庫
フィリップの邸宅には、蔵が4つほどある。
そのうち3つは主力商品の塩であったり、それに伴った器具類が占めている。
最後の1つが、彼自身のコレクションを詰め込んだ宝庫となっており、その他の3つと比べると厳重な作りとなっていた。
一同を連れて中に入る際も、外側にはしっかりと見張りのものを手配している。
「ささ、皆様どうぞお入りください」
フィリップは自慢のコレクションを見せたくてしょうがない。今回のゲームの報酬として見せるとは言ったものの、たまに人目に出してそれを褒めてもらわないと、彼自身の自尊心が満足しないのである。
「こりゃすごいですな、初めて見るものばかりだ
宝石や貴金属ばかりかと思っていたら、絵画や美術品の方がずっと多いのですね」
エイジーンの発言は、フィリップを喜ばせた。
「その通りです
宝石などは、コレクターとしてはまだ青い人間が集めるものです
やはり価値がわかるものは、それ相応のもの求めなくてはいけません」
確かにそこにある美しい彫刻や織物は、シュンのいた世界でも通用するほど精巧に作られていた。
「シュン!見てみろ、こっち!」
ライドンが何か見つけたようだ。
「わあ、すごい…これは」
そこには、美しい装飾を施されたドゥンバがいくつも並んで置いてあった。
「叩いてみてもいいですか?」
「もちろんですとも
むしろ皆さんのような実力のある方のために、このドゥンバは存在するのです」
ライドンはおもむろに手前に置いてあったルンバを掴み、あぐらをかいてお腹に配置して見せた。
ドゥオン
タァン
「すげえ!
今まで触ったどんなものよりも、低音が広がる!
これは師匠のやつよりも凄いかも」
「本当かよ?俺も…いいですか?」
エイジーンもまるで童心に帰ったように無邪気にドゥンバを選ぶ。
シュンも触らせてもらうことにした。
サビアラはその様子をニコニコと眺めている。
「こっちにはラトローシュがあるわ
これもいいですか?」
アミリアはそっちに飛びついた。
「ええ、どうぞどうぞ
この楽器の価値は、私にはわかりません
ぜひ皆さんで使ってみてください」
フィリップは価値がわからないとは言いつつも、みんなに褒めそやされるのを待っているようだ。
「これは本当にすごい楽器たちですな
ドゥンバはそれぞれ美しく均一なロープで巻かれている
使っている木も、これはケレンの木だな、最高級だ
売ったら1,000,000クランはくだらないのではないでしょうか?」
「さすが、目利きですな
1,000,000クラン以下の代物はございません」
「そんなに高いんですか?
ライドン、君のはいくらなの?」
「それを聞くなよ、シュン…」
その場は笑いに包まれた。
「シュン、そういえばクロニアにも楽器屋があるから、行ってみようよ」
「ああ、そういえばタルネの手紙に楽器屋に行きたいと書いてあったんだ
再来週こっちに来るみたいだから、一緒に行こうか」
シュンはタルネと文通していた。
だがこの世界では、タルネという名は男性名としても通用する。
そのためサビアラは、相手が女性である可能性など思い至りもせず、特に反応を示さなかった。
「あの奥のほうにあるスペースは、何かしら?この中のものにしては、どれも使い古されているように感じるけど」
サビアラが指した先には、これまでに見られたような華美な品は一つもなかった。
代わりに色あせた粗雑な品々が、場違いなほど無造作に積まれている。
「ああ、あれは私もなんだかわからないもので、とにかく他の国のものを何でも揃えたのさ」
「他の国のもの…?」
それはシュンが一番見たいものだった。




