第82 話 鍵外し
小さな板に鍵穴がひとつ。向こう側にはロックが入っている。木製で手作り感のある簡素なものだ。
鍵を使わず、手も使わずに、このロックを外せばいいわけだ。
ひとまず年長のエイジーンがやってみせる。
軽くドゥンバを顕現させて演奏し始めた。
ドンツタタンツドドンツタタンツド
周囲の空気が振るえ始める。
カタッ。
その瞬間、ロックが外れた。
あまりにも簡単。律動師にとってこれはたやすいことだった。
「さすがですな
これでは普通の家の鍵などは全て無効になってしまいそうだ」
「はは…ですが、この程度であれば律動師でなくとも、盗賊の連中だって簡単に開けてしまうでしょう」
エイジーンによると、モンスターを倒すのとは少し要領が違い、こちらから向こう側に空気を送り込むようなそんなイメージなんだそうだ。
2つ目の鍵。これも先ほどと非常によく似た形をしているが、今度は鍵穴部分も鉄製だ。
「おれにやらせてくれ!」
ライドンが手を挙げた。そもそも一番やりたがっていたのが彼である。
ドンッ、タンッドドンッ、タンッド
カタッ。
「やった!」
ライドンは器用なタイプだ。一度聞いたことをすぐできるようになる。
「いやあ、さすが皆様、鍛えられてますな
でもここからですぞ」
3つ目の鍵だ。フィリップの言う通り、この鍵は少し形が違って見える。今度は錠前になっているた。
大きさは4センチほどで、中央にはひし形を4つ並べられたあのマーク。
「律動連盟のものだな」
「そうね、ウチらで出してるやつみたい」
その錠前は単なるものではなく、異質の空気感があった。中でうごめく何かの雰囲気がする。
「私もやってみたい、いいかしら?」
サビアラが前に出た。
「サビアラ、できるか?
よーく耳をすますんだぞ、わずかだがこの錠前が発する振動がある
それを感じ取って、その逆を叩くんだ」
エイジーンが優しくアドバイスする。
「逆?わかった、やってみるわ」
ドドンタツツツツ
ドドンタツツツツ
小さく揺れを感じる。わずかな空気の揺らぎ。サビアラは、確かにそれを感じ取った。
ドドンタツツツツ
ドゥンバでそれを再現する。
「いいぞ、そのリズムを続けるんだ
だが、同じリズムをやると、鍵は逆に強くしまってしまう
慣れたら高音と低音を逆にするんだ」
エイジーンのアドバイスにサビアラも応えた。
タタンドツツツツ
タタンドツツツツ
「うまい!」
ガチャ。
鍵が開いた。サビアラもうまくやってみせた。
「おお、サビアラ、すごいなぁ!
さすが王立学院で拍を学んでいるだけの事はある」
フィリップも、サビアラがここまでの使い手になったとは思っていなかったようだ。驚き、そして喜んだ。
4つ目の鍵。
錠前の大きさは8センチほどで、さっきの倍になった。表面はざらざらしていて、何かを意図的に形どったような歪な形態をしている。
この分だと中も細かな細工がなされているように思えた。
明らかに、内包されるリズムも複雑なものが予想される。
「ウチにもやらせて、面白そうだわ」
アミリアが前に出る。
目をつぶり、集中するアミリア。
錠前のサイズは大きくなったものの、発する鼓動は小さくなっているような気もした。よほどの練達者でない限り、これを捉える事は難しいであろう。
スタンタタドンドスタツッッッッド
相当複雑なリズムが小さく刻まれている。
しかもこれを外すには、逆のリズムを演奏しなければならない。
「行くよ」
スドンドドタンタスドツッッッッタ
「すごい…」
ついシュンは、感嘆の声を漏らしてしまった。
アミリアの刻むリズムは正確そのもので、今まで聞いたどんなリズムよりも美しく聞こえた。
ガチャ。
「開いたわ!やった」
「はあ、この錠までも簡単に…アミリアさんとエイジーンさんと言えば、この国のトップの律動師様ですからな
それにかかってしまっては、どんな錠前も役に立たないかもしれませんな」
「イェーイ」
アミリアはエイジーンとハイタッチしている。
その姿はとてもこの国有数の凄腕律動師には見えない。
残りの錠前はひとつ。
さっきのものとは打って変わって、形はシンプル。サイズも4センチほどと小さくなった。
「実はこれは律動連盟とジル様が協力してお作りになられた最新の錠前でございましてな
いかに拍の力を用いようともそう簡単には開かないと思われます
やってみますかな?」
「はい、じゃあぼくが…」
やっていないのはシュンだけだ。まさかの師匠が作った鍵。これを開けたらジルもさぞや褒めてくれることであろう。
耳をすまして、錠前のリズムを聴き始めるシュン。
「……」
「……」
感じない。全くリズムを感じない。
これでは普通の鍵だ。まさか何のひねりもなく、ただの錠前を作ったのか?
いや、ジル限って、そんなはずはない。
「……」
もう一度集中して探ってみるが、全く反応はなかった。
前の四人がかっこいいところを見せていただけに、シュンの顔にわずかに焦りの色が見える。
「どうでしょう?やはり難しいですかな」




