第79話 キムルとティンタ
タカタカタカタカタカタカタカタン
タカタカタカタカタカタカタカタン
心地よい高音が空に響いていた。
8月の対抗戦までもはや1ヵ月を切っている。ティンタは練習に余念がない。
ブンッ!
ブンッ!
すぐ横ではキムルが木の棒を思いっきり振っていた。
タラブ王国では、小さなボールを投げてそれを木の棒で打つギコバッタというゲームが流行っていた。キムルは最近それにハマっていて、仕事の合間ももっぱらその練習をしている。
「ティンタ、ずいぶんはかどっているじゃないか
それにしても君が本当に代表に決まるななんて嬉しい限りだよ
国の代表という前に、俺たちの代表でもあるわけだからな
エイカーの一人として頑張ってくれよ」
キムルは幼なじみとして誇らしい。
「そうね、嬉しいわ 本当にとても
でもそれと同時に、勝ちたい気持ちが同じ位湧いて来ちゃったの
組み合わせを決めるのは、あのナーバ(僧侶)の団長よ
まあどう考えても私は先鋒じゃないかしら
大将がドゥール(奴隷階級)っていうのは絶対にないし、強い相手にぶつけたいだろうから」
「クロック王国の代表ってどんなやつなんだろうな?
ティンタに勝てるような奴がいるわけないと思うけど」
キムルは今までティンタが拍の戦いで負けたところなど見たことがない。
「キムル、あなたは律動師ではないから知らないだろうけど、ここ2回の対抗戦においては、うちらはあの小さいクロック王国に負けてるのよ」
「え、そうだったの?信じられないな
やっぱりナーバとトイヤ(貴族)だけで編成されれば、実力的には大きく劣るのだろうか」
「それが違うのよね
もちろん、ドゥールやシスラ(一般市民)の中にも強い律動師はいるけど、前回はマディエラとパダニサも出てるのよ」
「なるほど、最強のマディエラとパダニサがいたところで、5本勝負のうち2本しか取れないもんな
クロックの奴らの方が、層が厚かったっていうことなのかもな」
律動師ではないキムルですら、マディエラとパダニサの名前は知っている。それほどに二人の名声は国中に轟いていた。
「二人とも負けたわ
大将のマディエラは、向こうの大将のジルっていうやつに完敗だったそうよ
パダニサは副将だったらしいのだけど、なんか半分位の身長の女に、コテンパンにされたらしいわよ」
「それって本当なのか?
対抗戦の事は広く知られないようにされてるって聞くけど、そんな衝撃的な内容だったら、もっと噂になっても良さそうだけどなあ」
「本当のことの方が広まらないこともあるのかもよ
パダニサは今でもそのことに触れられるのが嫌で、周りの人は気を使ってるらしいから」
あのパダニサが、心にまで傷を負うほどに打ちのめされたとは。キムルはクロック王国の恐ろしさに言葉を失った。
「ティンタ…大丈夫なのか?
怪我だけはしないでくれよ、負けたって何とも思わないからさ」
「キムル、私は絶対に絶対に負けたくないの
だって、私にとって拍だけが自信が持てるものだから
これで負けたら平静ではいられないわ
しかも、同じ位の年のやつになんて…絶対に嫌」
「絶対って3回も言ってるよ
気負いすぎないでほしいけどな
でも、君くらいの戦闘経験を積んでいる若者が他にいるとは思えないけどな
ティンタは今まで苦戦を強いられた事はあるの?」
「ないわけないでしょ、私だって最初から強かったわけじゃないんだから
模擬戦で言ったら、マディエラに勝った事は一度だってないのよ
対人戦はどんなリズムにも対応しなきゃいけないし、初見殺しの変わったリズムも一つは身に付いてないといけないのよ」
「大変だなぁ、
ワルツとか変拍子とかそういうやつを使えばいいんじゃないか?」
キムルの返事に、頭を抱えるティンタ。
「あなたね、なんでわたしの苦手なリズム知ってるのよ
なんかさ、乗りにくいリズムって本当に嫌なんだよね
ほら、私たちタラブの民って踊りが好きじゃない?」
「ハハハ、そうだな
でも、クロックの奴らがそれを知ってたらそこをついてくるんじゃないか?」
「……」
まさにそうだった。ジルに完敗したマディエラは、タラブ王国で使われないリズムをたくさん浴びせられたと言っていた。
「ちょっとギルドに行ってくる」
少しでも不安を消し去りたいティンタは、先輩たちに力を借りに行く。
もう時間はわずかしかないのだ。




