第75話 振動計
「これを一人の律動師の体に取り付けると、その者が拍を操る時、分体を取り付けた半径100メートルほどの兵士に筋力増強などのバフ効果を生み出すことができます
分体の数は増えるほど効果は薄れますが、100人くらいは余裕で影響を与え続けられる」
「…そんな…すごい」
「…なんですって?そんなものだったの…」
サビアラは売り物の内容を全く知らなかった。思ったよりよほど物騒なものだ。
「どうりでその金額だったわけだわ…」
「そう、これ一つの値段は10万ピアル
こちらの値段ですと1000万クランですな」
「………!」
あまりの高額に驚きを隠せないシュン。これは道具というより完全に兵器だ。
「ただ、これを使用した後の律動師たちはどうなりましょう
普通にリズムを演奏するだけのこととはわけが違うようです
1時間もすると、全身の疲弊と苦痛に襲われます
何日も連続で戦場に立つ者は髪も抜け落ち、まるで生きる屍のようにげっそりとやつれ切った状態になると聞きます」
なんてことだ。律動師たちの大変な苦労の裏にこのクロック王国の平和と繁栄があったのだ。
「タラブ王国は早期に戦乱を終わらせたいのか?というと、そうとも言えない状況にも思えます
国内では反政府団体エイカーというのが幅を利かせはじめており、常に反乱の要素を抱えております
外に敵がいた方が国民の団結を煽れる
さらにはエイカーなどの目障りな連中を戦場に送り出せば自動的に粛清もできる、更には…
律動連盟の奴らも処分できますしな」
その言葉にシュンは反応せざるを得ない。
「あの…タラブ王国では律動連盟と政府は関係が悪いのですか…?」
ナゴラはわかりやすく話してくれた。
今の政府とディルモ教の階級制度。律動連盟の立場や女神真教に対する弾圧などのことも。
「シュン様、今律動連盟の律動師がタラブ王国に行くのは危険です
行くならクロック王国の使者として安全な状況であることが必須
それ以外の国も血眼で律動師を集め、育成しております
わかりましたかな?」
「…はい」
シュンは甘かった。
今まで平和な日本で暮らしてきた感覚は完全に取り去らなければならない。
「シュン様、振動計などはまだ序の口です
世の中にはもっともっと危険なものがございます
それを使ったら人間に戻れなくなるようなものも…
強くなるのでしたら、本当に規格外になってください
それこそジル様のように」




