第74話 クロック王の治世
「なぜでしょう?
拍の実力があった方が旅は絶対安全だと思うのですが…」
ナゴラはシュンの言葉に少し口籠もり、考え込んだ。言っていいものかと迷うかのように。
「ふむ、シュン様、サビアラ様も
クロック王国の政治は今どうなっているかお分かりでしょうか?
グレディモール王の治世となりハシュフリード様が宰相となってからは、街道は整備され、盗賊などの輩はいなくなりましたな
モンスター対策の城壁も強化されました
福祉などにおいても年金は増額され、逆に徴収される税は安くなりました
このユルシール大陸内に、これほど民が暮らしやすい環境はありますまい」
シュンは知らなかった。そこまであの王が優れた政治を行なっていたとは。
ユウナにも感謝した。改めてこのクロック王国が転移した場所でよかった。
「この世界は君主制がだんだんと無くなりつつあります
タラブ王国も合わせて12の巨大国家がありますが、もはやどこも共和制を敷いております
ビートン王国などはこの世界最大の国家ですが、『王国』と言いつつ、政治のほとんどは宰相や内閣が執り行っている
王は口を挟むことはできません、それを国民も皆知っております」
「タラブ王国やクロック王国も多少似てはおりますが、民はみな王が政治を仕切っておると思ってますし、宰相など名も知らぬといった状況です
それでもなぜやってけるのか?それは、タラブにはディルモ教という強い支柱があるから
そしてクロックにおいては、鎖国と、この優れた治政があるからで間違いありますまい」
シュンもサビアラもこの商人の話に聞き入っている。学校で聞く授業などよりずっと面白い。
「わたしの出身はタラブ王国の北東にありますジギダウ共和国です
そこから見る景色としては、タラブもクロックも未だに王の君主制を採用している珍しい国に見えますな
話を戻しますが、クロック王国の政治において、今言ったこと、全て大いにお金がかかります
その金の出どころはどこでしょうか?
お二方はご存じですか?」
「え…?わからないわ
わたしたちの税金じゃないのよね?
それだったら…」
「シュン様、やはりまだこの国を出るのは危ないかと存じます
もう少し情報を得てからの方がいい
いいですか?タラブ王国は西にピクス共和国、北にマガラ共和国と戦争状態です
当然そのことはクロック上層部の方はよくご存知です
宰相のハシュフリード様は恐ろしい方です
例えば振動計」
ナゴラはそこにある振動計をひとつ手に取った。
「クロック王国は振動計の技術は、この世界でも随一のものです
この国には優れた工匠があつまっている
全てハシュフリード様が宰相になられてから大きく進化したのです
あなたがたは律動師だ
我々より多く女神様の鼓動を感じ取っているのでしょう?
この国は実に正確に時を刻むような、そんな鼓動が生きています
他国に住んでいる人間からすると気味が悪く感じることもあるくらい…
だから振動計などの精密な器具を作るのには適していた
ハシュフリード様はそこに目をつけられた」
ナゴラが手にした振動計は、いくつもに連なり、人の体に取り付けるような形をしている。
「これです、
これをクロック王国はタラブ王国に売っている
そして我々を通じてそれ以外の他国にも捌いているのです」




