第73話 フリック大陸
「やや、お待たせしましたな
何の話を聞きたいのでしょう?」
ナゴラは商人らしく下手に出ながらも、柔らかな物腰の奥に、値踏みするような視線を潜ませていた。
場所は再びタラブ商館の応接間へと移され、シュンとナゴラは向かい合う。
他のメンバーは気を遣って席を外したが、
サビアラだけは半ば強引にこの場へと残った。
「一番聞きたいのは、フリック大陸というのがどこにあるかなのですが…」
「フリックですか、あなたはよくこのクロック王国におりながらその名を知っておいでですな
ここからは地の果てと言えるほど離れた場所にありますぞ
というか、わたしもタラブ一と言ってもいいほど商人としてたくさんの場所を駆け回っておりますが、このユルシール大陸を出たことはありません
しかもフリック…情報が無さすぎますな
こんなこともあろうかと地図をお持ちしましたので、こちらをご覧になってはいかがでしょうか?」
ナゴラは使い古された世界地図を持ってきた。
そこには大きく分けて5つの大陸があり、説明によるとクロック王国はその中の1つ、ユルシール大陸というところにあるようだ。
ユルシールは5つの大陸の中でも小さい方にあたり、さらにクロックはその中でも国としては大きくはない。
地図を見る限りは、ここはまさに東の端といった場所だ。
「ありがとうございます
どうすればフリックに行くことができますか?」
「なんと、あそこに行くと言うのですか?
お辞めになったほうがいい
というか、このクロック王国は鎖国中でございましょう?
我々他国の商人と会うことすらはばかられるのに、王国がそれを許しますまい」
「そうですか……
王様に頼めば何とかできませんか?」
その言葉に驚くナゴラとサビアラ。
「シュン、あなた何を言ってるの?
グレディモール陛下に直接お願いするですって?」
「シュン様、あなたは王と直接お話をできるような関係なのですか?」
二人の反応に逆に驚くシュン。まさか失言だったか?と思い直す。
「え、それはわかりませんが、こちらから持ちかければ、あるいはと…」
「シュン、あなたね、わかってないようだけれど、グレディモール陛下はそう簡単に顔合わせできるような存在じゃないのよ?」
ため息をつくサビアラ。シュンの無知は学院内でも話題になっていたので、呆れた様子だ。
「そうなんだ…
じゃあ、ハシュフリードさんに聞いてみるよ
彼にはいつでも連絡していいと言われているから」
その言葉に大きく口をあんぐりと開ける二人。
「…シュン様、そうなると話は全く違ってきますぞ
ハシュフリード様は、このクロック王国において完璧に実権を握っておられる方です
彼が国外への移動を許可いたしましたら、これはネズミであろうと猫であろうと、誰でも出国が可能です」
「そうなんですか?聞いてみます」
「なんたること…しかし、命知らずですな
なぜこの平和なクロック王国から、わざわざ命を賭してまで危険な旅に出たいのです?
この地図を見なされ
クロック王国はこの世界の最東端のにございますでしょう?対して、フリック大陸は西南にございます
まさに反対側と言えましょう
それでは東の海から向かえばすぐ着くのではないかといいますとそうではございません」
ごくりと息を呑む二人。
「東の海は西の海と繋がっていると言われておりますが、それは船ごと漂流して辿り着いたものの弁があるのみ
潮流は複雑、広さも大陸4つ分はあるのではないかと言われております
とても目指すべきルートとは言えない
陸路を進んだとしても、まずそこまで辿り着くのに通過する国が何ヵ国あるのか?
このユルシールだけでも大小13ヵ国あります
さらに大陸間移動を2〜3回するとなると簡単に通してくれる国があるのか?
鎖国中のクロック王国の民など、最も信用に足らないと思われます」
聞けば聞くほど難しいことに思われる。
しかしせっかく来た以上サビアラもシュンに有力な情報を持ち帰らせたい。
「ナゴラさん、彼はレベル300近くの実力派律動師よ
しかも律動連盟に所属する正規のね
それでも難しいのかしら?」
さすがにそれにはナゴラも目を見張った。
しかし、話はポジティブな方には流れなかった。
「なるほど、それは素晴らしいことです
律動連盟の協力があればあるいは何がしかの可能性が生まれるかもしれません
ですが、拍の実力があることが逆に己の身を危険に晒すことになるかもしれませんよ」
「え、それってどういうことですか?」




