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第71話 特技

フグシムの鼓動に、耳を寄せるシュン。


トゥクタントゥクタン


そして自らも少しずつそのリズムを口にする。


トゥクタントゥクタン…


この呼吸が完全に一致したとき、まるで手足のように人馬の呼吸は整うのであった。


シュンが右に旋回しろと指示する前に、フグシムはやってみせる。シュンが止まれと命じもしないのに、フグシムはピタリと止まってみせた。


シュンは乗馬に呼吸法を取り入れ始めてから、クラスで馬術の神と言われ始めていた。


学院の馬たちよりもさらにフグシムはコントロールしやすかった。

その馬体は、無駄を削ぎ落とし、ただ「動くこと」のみを目的として研磨されたようで、すべての筋肉が絶妙な調律を保っている理想的な鍛え上げ方だった。

その上で指示も正確に聞いてくれた。


「フグシム、君はすごいなぁ

こんなに乗りやすい子は初めてだよ」


「ブヒヒィン!」


シュンとフグシムは駆けた。

外島という箱庭のような狭い空間で、それでも二人は風になった。

それを見ていた長髪の青年は目を丸くしていた。


「ありがとう

フグシム、すごい乗り味で感動したよ」


シュンはふわりと飛び降り、青年に礼を言った。


「待ってくれよ、感動したのはこっちだぜ

まったく、君は何者なんだ?

フグシムをここまで乗りこなすやつは、わが国に一人だっていないぞ

いたとしても、このおれ位だよ」


青年は嘆息しながら言う。


「え、そうなの?

こんなにおとなしくていい子なのに」


「ハハハ、フグシムがおとなしくて良い子だって?

誰が乗ったってすぐ地面に叩きつけてしまうんだよ

まずサイズ感がすごいだろ?

こんな奴に振り落とされたら、即死だよ」


確かに、フグシムのサイズ感はとんでもない。

シュンが府中競馬場で見たどのサラブレッドよりもひと回りかそれ以上でかい。

青年はフグシムを手慣れた様子で厩舎へ戻した。

二人はそのまま路上でひと息つく。並ぶと背格好も同じくらいで、シュンは妙に親近感を覚えていた。


挿絵(By みてみん)


「いつから乗馬をやってるんだ?ここまでの技術を身に付けるのに何をした?」


「ああ、馬は小さい頃から見てきたんだけど、初めて乗ったのは先週かな」


それを聞いた青年は、たちまち怪訝な顔を作った。


「おい、馬鹿にするなよ

そんな話誰が信用すると思う?

お前の乗り方は1年かかったって身に付くものじゃない

そのお尻を浮かせて猿のように乗るスタイル、どう見ても不安定だしな」


シュンはいつの間にか、自らの世界のジョッキーの乗り方を真似ていた。

それを見抜くこの青年も、なかなかの達人らしい。


「ああごめん、本当の話なんだよ

ただ、おれは実は律動師でさ、拍を扱っている

だからちょっとズルしてるかもしれないんだよね」


「わかるよ、でもそれはズルじゃない

技術があるならやるべきだよ、とても綺麗な金色の光だった…

そうか…拍だけじゃなく、もっと変わった感覚を見つけた気がするんだけど違ったかな…」


シュンは彼が馬術に拍を使う事実を知っていたことに内心少し驚いていた。それはクロニアの王立学院でも誰も知らないことだったから。

そして乗り方ひとつ見るだけで異世界の感覚を発見してしまうこの少年の凄さにも。


「おれも少しは拍ができるんだよ

でも、そこまで才能がなかったらしくて、律動師にはならなかったかな」


「そうなの?すごいじゃん

磨いたら良くなるかもしれないよ

おれだって最初は全然だめで、たくさんのすごい人たちに才能を伸ばしてもらえたから… 」


「そうか、確かにその道もあったのかもしれないね

でも、おれの場合は他のことにすごく才たけたものがあったらしくて、今はその仕事が忙しすぎるから、興味はあるけど拍をやっている時間はないかな」


「そっか、すごいな…その若さでもう仕事してるなんて、

おれは16才なんだけど、君はいくつなの?」


「え、おれも今15才だけど、来月16なんだよ

同じだね!」


「8月生まれなんだ、

おれは2月生まれの16才だから、学年的にはおれが1個上なのか」


「クロックではそうなのか?

おれたちは9月に生まれ年が決まるから、おれとお前は同い年だよ」


「なるほど、そうなのか!

同い年か…嬉しいな

そうなると、ライドンもこっちの世界だと実はタメなんだな

すごいなあ、同い年で、もう自分の特技で仕事にしてて…

君は何の仕事をしているの?」


シュンの何気ない質問に、少し口籠る青年。


「……クロックは今どこかと戦争してないだろう?

国内で内戦とかはあるのかい?」

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