第67話 スタイル
スカッ。
確かにエイジーンの思い切り振ったスティックがシュンのライドシンバルに触れたかと思った。だが、それはそのまま通り過ぎてしまいきたように見える。
「何が…?」
「あら、シュン
わからない?
具現化された楽器はその人しか演奏できないわよ」
アミリアは不思議な顔をするシュンに優しく教えてくれた。
「そうなんですね、初めて知りました」
「実際に演奏したことのある楽器しか顕現できないしね」
「それは聞いたことがあります、ライドンだって何度もドラムを見ているのに、全然自分では作れないみたいで…」
何かを思い出したようにふふふと笑みを浮かべるアミリア。
「そうよ
だって、ジルだってドラムがほしくてほしくてしょうがないじゃない
こないだなんて絵まで描いてたわよ
あなたの尊敬する大師匠がどんなに頑張ってもイメージしきれないんだから誰がやったって無理なのよね」
聖拍院の片隅で、ジルが一生懸命ドラムの絵を描いている姿を想像すると、シュンにはなんだか滑稽で可愛く思えた。
「シュン、ありがとうな
お前のこの才能は、世界中がほっとかないぞ
だから隠しておきたくなったのさ
律動連盟もクロック王国も、よほどお前のことを大事に扱うつもりでいる
どうか信じて一緒についてきてくれよな」
エイジーンの言葉は、シュンの心に深く刺さった。
シュンの気持ちはこの国や律動連盟を後にして、フリック大陸への旅に出るつもりでいたが、少し揺らいだ。
「ありがとうございます
ライドンや、皆さんのおかげで僕はここまで何とかやって来れたんで、必ず恩返しはしたいです…あ、ところで
エイジーンさんのライドシンバルってどんななんですか?」
「あぁ、見るか?」
ブゥン…!
エイジーンが顕現したのは、右側に大きなライドシンバル、左手の方にはドゥンバだった。
そして、左側にももう1枚クラッシュシンバルがある構成だ。
「あ、このスタイル見たことがある」
「お、誰だ
そんなに多くないと思うが」
「イーサップに行った時に、メイナという女の子がこのスタイルで戦ってました」
「なんだ、あいつか
イーサップは律動師の育成が最も盛んだろ?
俺ももう何度も行ってるんだけど、メイナのやつにしつこくせがまれて、まぁ結構教えてやったのさ」
シュンにはエイジーンに強引に頼み込むメイナの姿が容易に想像できた。
「やつはバトルが大好きだろ?
初見殺しの能力が欲しかったんだよな
基本的なリズムバトルだと、今の実力だと全然勝てないからな
やったのか?もしかして」
「ライドンがやりました
引き分けっていうことになってるみたいだけど」
「お、ライドンはテンポスのホープだもんな
メイナのやつ、なかなかやるじゃないか」
実際はメイナが圧倒的に押していたとは、彼の名誉のためにも黙っていることにするシュン。
「あの、僕にもその叩き方を教えてもらえませんか?」




