第66話 夜の来訪者
「はい、誰ですか?」
「シュン、エイジーンだ
話したいことがあるんだが、少しだけいいか?」
その低い声は、確かに彼のものだった。
「どうしたんですか?
いいですよ、どうぞ」
シュンはドアを開ける。すると、エイジーンの巨体の影に隠れていたもう一人が顔を出した。
「シュン、あたしも来ちゃった
いいかな?」
「えっ、アミリアさんも
もちろんですよ!お二人揃ってどうしたんですか?」
シュンはいそいそと二人を招き入れた。
大先輩二人の突然の訪問だ。慌てふためくのも無理はない。
ホテルディアニルズのスイートルームはかなり広い。
20畳ほどの寝室とリビングを備えた、若者が一人で泊まるには贅沢すぎるものだ。
「おいおい、すごい部屋だな最上階は」
「あらら、あたしたちと差があるじゃない
サビアラ、さすがに未来の旦那は特別待遇なのね」
先輩たちの冷やかしを受け、シュンは自分の特別扱いを初めて自覚し、余計に恐縮してしまった。
「すみません、全然知らなかったので…」
「いいよいいよ、冗談だ
それより遅くにすまんな
昼間だとなかなか話せなくてな」
「はい…ぼくは何かしちゃいましたか?」
「違うのよ、シュン
あたしたちは…ドラムが見たいの」
意外な角度からの話題にシュンは驚いた。国を代表する、と言ってもいいスター律動師二人が、自分のドラムを見たいがためだけにお忍びで訪問してくるだなんて。
「え、あ…はい
全然OKですよ、そんなのでいいなら!」
「ごめんね、シュタルクがシュンがドラムを使えるのを学院内では隠させてるって言うから…
しかもドラゴンの話も口止めまでしちゃってるでしょ、サビアラもいる前で大っぴらに出すのは控えた方がいいのかなって」
先輩方の気の使いように驚くシュン。そしてその気持ちが嬉しかった。
「はい、そうなんです
テンポスではどこでも出してたから、クロニアで我慢するのが変な感じはしてますが」
「まあ、何か理由があるんだろ
それより、な
見せてくれよ」
「はい、いきます」
ドラムを出すにはこの広いリビングスペースは打ってつけだ。
ブゥン…!
シュンは白のラメ入りの美しいドラムセットを顕現して見せる。
「おお…!」
「すごい、綺麗…!」
エイジーンは身を乗り出して食らいつくように見ている。
「シュン、このでかいのは、スウィング用のシンバルだよな?」
「え、はい
ライドシンバル…ですか?」
「ライドシンバルと呼ぶのか、綺麗だな
俺の使ってるのよりずっとずっといい」
「エイジーンさんもライドを使うんですか?」
「ああ、お前のとは全然違うけどな」
そう言うとエイジーンはおもむろにスティックを顕現してみせた。
「叩いてみたいな」
それを思い切り振り上げるエイジーン。
「あっ、エイジーンさん、これは結構音が大きいです
こんな夜中に鳴らすのは…」
シュンの制止も聞かずにエイジーンはブンとスティックを振り下ろす。




