第64話 戦況
「ごめんなさい、色々と仕事を増やしちゃったかしら?」
「いや、そんな事はないよ
君がイレギュラーなことをするのは想定内だからさ
それより十侍僧の連中の顔が見たかったな
慌ててこっちにも連絡をよこしてきたんだぜ」
ダラドはタラブ王国の律動連盟内ではトップの立場だ。それでもそう思わせないような軽い口調でいつも話す男だった。もちろん気心の知れた仲間の前だからというのも大いにあるが。
「十侍僧から連絡が来たの?
なんかまた嫌味なことでも言ってきたのかしら」
「ふふふ、全然違うよ
ティンタを対抗戦の代表に据えてくれだとさ
笑えるよな、お前の読みが大的中」
マディエラの顔が、パッと明るく輝いた。
ティンタのはしゃぐ姿が想像できる。
「本当に!?早く彼女に知らせたいわ、きっと大喜びする」
「ダラド、どういうことなんだ?俺にもわかるように説明してもらえるか?」
パダニサには話の中身が全くわからない。
もちろんマディエラにだって実はあまりわかっていない。
「奴らの考えそうなことさ
おそらくこちらがティンタをダシに使ったんだと踏んだんだろう
奴隷である彼女を殺させて、内戦の発端にするつもりだと思ったんじゃないか?」
「なんですって?」
マディエラの表情が驚きとともに強張った。
「まあまあ、奴らはそんな連中だよ
俺たちがエイカーとつるんで何か画策してると信じ込んでるからな
ヌァンラがいない今、窮地に立たされているエイカーは、ことを起こしたくてしょうがないわけだ
十侍僧としては敏感になるのも無理はない」
「ダラド、十侍僧は内戦を回避したがっているということなんだよな?
という事は、ヌァンラが投獄されてる間に物理的な戦い以外で俺たちやエイカーを締め上げようとしているということか?」
ダラドはにっこりと微笑んで頷いた。
「その通り!
エイカーの様子を見なよ、末端から支持者が減って、少しずつ壊滅に向かっているじゃないか
俺たち律動連盟も、政府関係のタスクは一切回してもらえなくなった
ヌァンラが単独で俺たちに仕事を回してくれていたんだってことがはっきりとわかったよな」
「そうだったのか…
十侍僧としては、北でも西でも紛争を抱えていて、さらに国内でも反乱を起こされたら、実際困るっていうことなんだろう?」
「パダニサ、果たして今内戦はまだ起こってないのだろうか?」
「どういうことだ?」
「十侍僧が恐れているのは、ディルモ教の力が縮小していくことだ
その一番の目の敵は、やはり宗教的な対立もある女神真教だと思う
次に、反階級団体のエイカー
そして最後に世界的な組織の俺たちだ
そもそも奴らは俺たちを敵に回して勝てると思ってないんだよ、わかるか?」
「わかるようなわからないような
何が言いたいんだ?」
「奴らは、律動連盟とは戦いたくない
しかし、まだ力のない女神真教やエイカーは今すぐにでもぶっ潰したいのさ
そのために政府として何ができる?
今、北や西の一番やばい前線に兵士として駆り出されているのは、ほとんどが女神真教やエイカーの末端の連中だ
他国の力を使って、自国の人間を殺してやがるのさ」
「なんだって?
奴ら…許せねぇな、そこまでひどいとは」
パダニサは初めて耳にする政府の横暴に怒りを隠せない。
「パダニサ、それで終わりじゃない
今朝俺の元に届いた連絡は」
ダラドは苦い顔をした。いつも笑顔を絶やさない彼の表情がわずかに歪む。
「連盟律動師の前線への派遣要請だ」
「……!」
「しかもだ、ご丁寧にレベル600以上を求む、と書いてあったぞ
誰のことだ?」
マディエラの表情も怒りに燃え始める。
「私のことね、パダニサも
そのレベルの人間なんてごくわずかよ」
「どうする気だ?ダラド」
もうパダニサも敬称をつけている余裕はない。
「従うわけあるか
だがいつまでも引き伸ばせない
奴らも本気だ、エイカーや女神真教が弱まったら確実に俺たちを潰しにくる
西のピクスのバックには、タラブなんかよりもっと巨大な国が控えている
北のマガラだって最強の将軍を起用して、もはや国境線近くまで侵攻し始めた
今国内で争っている場合じゃないと言うのに…」
パダニサとマディエラは頷いた。真剣な表情でダラドの話を聞いている。
「今までの状況は非常に悪かった、でもマディエラが風穴を開けてくれた」




