第65話 ダラドの策
「どういうこと?」
「世論を味方につけようかと思って」
マディエラはピンときていない。
「ダラド、新聞は全て政府が検閲しているだろ
世論なんてコントロールされている」
パダニサはもっともなことを言う。
「そうだな、でもさ
文字を読むのはナーバ(僧侶)とトイヤ(貴族)がほとんどだ、こんなのは国民の1割もいないぞ
シスラ(一般市民)やドゥール(奴隷階級)には通用しない
結局は人の噂話による伝達が一番強い」
「なるほど」
「この国で一番広範囲に組織を持っているのは誰だ?」
「政府やディルモ教を除いたら…
もしかして俺たちか?」
「そうだと思う
そしてエイカーだよな」
ダラドは含みを帯びた微笑を浮かべる。
「どうする気だ?ダラド」
「ティンタをヒーローに仕立て上げる」
「わからないわ、何をしたらいいのかしら?」
「クロック王国との律動師による対抗戦を巷に流布するしかないだろ
そして、代表として出場するのはドゥール
こんな痛快な事はあるか?」
二人とも目を輝かせて聞いている。
「ドゥールは国民の半数だ、熱狂しないわけがない」
「なるほど、十侍僧も自ら参加を認めたわけだし、噂がきっかけでは対象を裁きようがない」
「その熱狂をそのまま政府批判、ひいてはディルモ教の階級批判へ持っていく
エイカーも盛り返すだろう」
二人とも納得の表情で頷いた。
「でも、いいのか?対抗戦を大っぴらにしない理由は、十侍僧が拍を持ち上げたくないというのもあるが、
クロック王国の鎖国政策に対する配慮だよな?」
「……」
ダラドはしばし沈黙した。
「パダニサ、クロック王国はいつまで殻に閉じこもってられると思うか?」
「え…それは彼らの問題だが」
「もうそんな世の中じゃない
今にかならず開国することになるぞ
王政もここまでだ
マガラやピクスが小国というのに骨があるのは、共和国制で選挙によって首長を決めているのが強い
…ヌァンラがいれば奴はクロックとのパイプも太かったから、こちらから強くアプローチすることもできたかもしれないが」
「……」
その名前が出ると皆押し黙るしかない。
「エイカーの中にはもうヌァンラを脱獄させたくてしょうがない奴らがいっぱいいる
これはもう止められない
もし、俺たちに協力を求めてきたら…考えるしかない
幸い十侍僧側に拍の手練れはいないと見える
世論さえ有利になればヌァンラを救出したあとにうまくクーデターが成功する可能性も十分ある」




