第63話 ダラド
翌朝のバルムド聖拍院は沸き立っていた。
まるで律動連盟がタラブ王国政府に内戦を仕掛けたかのような内容で噂話が広まっていたからだ。
律動連盟のナンバーツーが、奴隷娘を引き連れてディルモ教の由緒ある寺院に襲撃を仕掛けた、といったところか。
全くの間違いとも言えない内容なので、連盟側としても火消しが大変だ。
マディエラが顔を出すと、周りを同僚たちからぐるりと囲まれた。
「マディエラ、何があったんだ?」
「戦争を仕掛けたって?ボスの許可は得ていたの?」
「連れて行った少女っていうのは誰のことなんだ?ドゥールと聞いてるけど」
なんとなく予想はついていたが、大の大人たちのこの慌てようにマディエラは辟易した。
「はいはい、ちょっと待ってよ
そんな一斉に話しかけられても困るわ」
「マディエラ!」
ひときわ大きな声が響く。
皆、その声のもとに耳を傾けた。
パダニサだ。
「来てくれ、ボスが呼んでるから」
当然の呼び出し。それもマディエラにとっては十分に予測していた事態だった。
「いいわよ、ここにいるとうっとうしくて」
パダニサはマディエラとコンビを組む機会が多く、彼女のやり方をよく知っている。だからこそ、今回の行動に対しても否定的な感情は抱いていなかった。
「お前もとんでもないことをしてくれたな
ボスは大慌てじゃないか?」
「ふふ、悪いことしちゃったかしら
でも、ティンタが気の毒だったんですもの」
「それはわかるよ、でもティンタは連盟の人間ではないだろ?そこまでしてやらなくてもな」
マディエラはパダニサの顔じっと見る。
「ティンタのためだけじゃないわ
ヌァンラがいなくなってから、この律動連盟も前と同じようにはいかなくなってる
この国は紛争が続いて民も疲弊しているわ、何か動きが必要だとは思わない?」
「……ボスがなんと言うかな」
「ダラドはもっと先を見てると思うわ
彼は私たちとは見てる世界が全然違うもの
私のやったことも、次の一手への布石として大きく活かすはずよ」
マディエラはボスを名前で呼ぶ。
バルムド律動連盟のトップであるダラドは、彼女の元同僚だった。年も近く、今更かしこまった呼び方をするつもりはなかった。
もちろん、パダニサにとってもそうではあったが、彼は上下関係をはっきりさせた方が仕事をしやすいと考えている。
そうこうしているうちに、ボスの待つ部屋へと辿り着く。
コンコン。
「パダニサです
マディエラを連れてきました」
「ご苦労だった、入ってくれ」
中に入ると、ボスであるダラドが椅子に腰掛けて待っていた。
歳の頃は三十代半ば位だが、見た目だけだとそれよりもずっと若く見える。
チリチリのパーマがかった茶髪で、髪の毛をセットする様子は無い。
表情はいつも笑みを絶やさず、逆にそれが周囲から何を考えているかわからない畏怖の対象とも捉えられていた。
「マディラ、ずいぶん派手にやってくれちゃったね」




