第62話 十侍僧
十侍僧とは、文字通り十人の僧侶からなる統治機構である。
この国の政治は長きにわたり彼らよって執り行われてきた。
もちろん、僧侶とて不死ではない。
時代ごとに入れ替わり立ち代わりナーバ(僧侶の階級)の身分の者たちが、その立場を務めていた。
十侍僧と王の関係は持ちつ持たれつだった。
政務の事は全て十侍僧が受け持ち、民からの尊敬と表向きの権力は王が受け持つ。
どちらにとってもそれがちょうどよかった。そのため、この体制が何百年と続いていると言って良い。
もっとも歴代の王にしてみれば、自らが「最高権力者」と称されながら、実際にはこの十人の僧侶より下位に置かれているという事実に、釈然としない思いを抱くこともあっただろう。
だが、現実には政務を担うだけの知識も気力もない。
それに黙っていれば何もしなくてもおいしい食べ物と楽しい遊びの日々が延々と続くのである。何が悲しくて自らが政局に駆り出そうと言うのか。
今までの王は、そうだった。
しかし、現王ヴィスタティエルはというと、少し違っていた。
彼自身が違ったわけでは無いのかもしれない。
そう、彼が王位についているこの15年の間に、ある異質の男が十侍僧のひとりに組み込まれたせいかもしれない。
「ヌァンラのやつ、何をやっても罪状を自供せぬわ
もう別の罪をでっちあげるしかないかの」
「やめろ、ナーバの間でそれをやってしまうと後の世に禍根を残す」
「タドゥニス様
おっしゃりたいことはわかりますが、ナーバであるがゆえに拷問もできない、連座もできないのでは、奴にダメージを与えることができません」
「ふむ、しかしな、仮にも十侍僧のひとりにまで昇りつめた男だ
軽々しく扱うことはできない」
タドゥニスは十侍僧の中で一番の年長者である。
十侍僧の間では順位を付けたり権力を集中させるようなことは絶対にしない"しきたり"となっている。
それは王に対する敬意であるし、そうすることでこれまで歴代の王との微妙な関係性を保ってきたからだ。
ただ、年が上であることから敬われることはある。それは仕方がないことだ。
「そういえば、今日対抗戦の合宿所でヌァンラの名を発する少女が現れたと報告がありました」
「…なんだと?どういうことだ」
「はあ、それが…」
ティンタの話はタドゥニスには衝撃が大きかった。そもそも寺院にドゥール(奴隷階級)の人間が入り込むなど…許されたことではない。
「あの忌々しい律動連盟の女狐め
自分が組織に守られてるからと強気に出おって…
ヌァンラを殺ったあとは必ず奴らをこの国から追い出してやるわ」
「タドゥニス様、そのティンタという小娘、ヌァンラの秘蔵っ子らしいですよ
奴隷の娘のくせに、穢らわしい…
見せしめに八つ裂きにしてやりましょうか?」
タドゥニスは沈思した。
「…それをしても良いが…
律動連盟が厄介じゃ、もしそれをきっかけにドゥールどもに働きかけて反乱を扇動されでもしたら…」
「もしや、今回のこと、それが思惑じゃ…」
「ありうる、あの女狐の考えそうなことじゃ
自らは奴隷解放、階級廃止を訴えておきながら奴隷の小娘の命を罠として利用するとは
油断も隙もないわい」
「いかがいたします?」
「…ふむ、
奴らの要求は、その奴隷娘を対抗戦の代表に入れることだったかの?」
「そのようです」
「入れてやればええじゃろ、
ただし、先鋒で出させろ
壮大に負けさせて恥をかかせるといい
向こうは大将と先鋒に強者を置くじゃろうて
こちらの大将はワルアルテで決まりなのじゃろ?では先鋒で捨て石にしてしまえ」
「なるほど」
「どうせドゥールなんじゃ、見すぼらしい格好で来るじゃろ
そこで恥をかかせてさらに一人目で惨敗、いい気味じゃ
王もそれを見て階級制度の良さに気づくわ、奴隷に拍など…もったいない」
「律動連盟の連中が慌てふためく姿が浮かびますな
まさか本当に奴隷娘を代表に据えるとは思うまいて」
「左様、相手の嫌がることをするのが政治よ
できればその先鋒の相手が殺してくれればよいがな、ヌァンラの泣き顔が見れそうじゃわ」




